緊張した打ち合わせの場で、鞄のなかのiPhoneがポンと鳴った。オキナワ妻からのメールである。こっそりチェックする。
要約するとこんな感じだ。
「沖縄県○○村在住の幼児(女)約1名、就寝時刻になってもまったく寝なくなり、“わたちはせかいでだれにもあいされてない”とか“ママもパパも だいきらいだ”などといじけて夜更かしをする。そのため翌朝は睡眠不足でパンをくわえながらボーッとしており、食事もキチンと取れない。ついては今夜8 時、幼児宛に電話し、このままちゃんと寝られないなら湘南の家に帰ることになると脅すように。以上」
フーッ。オキナワ妻からの緊急指令は、日々激務にいそしむ逆単身パパの都合などはなから想定されておらず容赦ない。
でもまぁ、オキナワ妻のマリオネットであり、娘に対しても電話での遠隔操作ながら、“父親”としての役目を果たす機会である。
まんざらでもないのがホンネ。
「それでは末日締め切り予定で進行致します」
マジメ顔の仮面の裏は、ニヤケ顔。遠く離れて暮らしていると、こういうことも滅多にあることでないので、ついニヤケちゃう。
男はいくつもの仮面を持っているのだ、なんちゃんって。 で、夜8時。もろもろのタスクを調整し、渋谷の路上から娘へ電話をかける。
厳しいパピーに変身できるだろうか。
「もちもち~。あっ、パピー、あのね、あのね、マミーがパパのいるおうちへ帰りなさいというの。
わたちはなにもしてないのに、マミーのおこりんぼ!」
まずは娘の言い分を聞いてあげなくてはならない。子どもには子どもならではの筋道とロジックがある。
頭ごなしというのが一番いけないと考えている。
そうして、ひととおり話を聞いたが、もろもろの都合のいい理屈が見えてきて、カワイイナーと思ってしまう。が、“パパ始動”である。
「でもね、マミーはなんで怒るのかな。なにか理由があるのじゃないかなー」
そうして、夜寝ないことやいじけていることなどを本人の口から聞く。そうかそうか愛しの娘よ。パピーはココロを鬼にして諭す。
娘は泣く。ココロが痛む。そして、ちゃんとできないと湘南のおうちへ帰ることになると告げ、ちゃんと寝ることを約束する。
「(ひっく)はあい。わかったー。(ひっく)」
翌日。マミーにメールすると、何も変化はなく夜更かししたという。ガクッ。 ダメじゃん遠隔マリオット逆単パピー!
まわりの仲間の5歳児の子ども を持つ連中に聞いてみると、いじけけて反抗するお年頃らしい。
だが子どもは自分で成長する。クラスがK4からK5に進級してしばらく経つと、自分から寝る ようになったらしい。
多分、学校でもこれまで一番下のクラスから、下を持つクラスになったことで、おねえさんらしい振る舞いが望まれるのだろう。
だが、こ とはそう簡単ではない。5歳児は怪獣へと進化を遂げるのだ。続く。
column by 細村剛太郎/Hosomura Gotaro
アメリカ、ヨーロッパ、アジアなどを放浪後、出版社にて雑誌・書籍編集者として勤務
退社後、フリーランスとしてメンズ雑誌、広告、ウェブマガジンなどで活動
十数年前、ユルい空気に誘われ東京から湘南に移住し、波と戯れる
家族の沖縄移住を機会に、いい年こいて某大学院文化科学研究科に在籍
新メディアを研究中
5歳の女の子のパパである