南仏のマントンにあるジャン・コクトー美術館を訪れたことがあります。
とりわけコクトーファンではなかったけれど、列車の時間待ちの間に
ちょっとのぞいてみようかな。という程度のかなり気楽な感じ。
海沿いに建つ小さな一軒家の狭い階段を上った2階には、
3枚の額が飾られていました。
真ん中はコクトーの絵画、その両脇には同じ額が飾られ、中に見えるのは地中海と空だけという展示方法。
ミュゼを訪れる時間帯により、
朝焼けの海とコクトー、日中の熱い陽射しを受けた海とコクトー、
そして夕焼けに赤く染まる海とコクトー。という具合に
ジャン・コクトーの絵画の見え方が時間によってまったく違ってくるのです。
3つのフレームがひとつの作品として並んでいたその粋な演出は、
当時まだ日本で学生だった私の心に強い印象を与えました。
フランス人のものの表現力と作品への高い理解力の素晴らしさにノックアウトされた瞬間。
フレームは、中身をより素敵に見せるものだけれど、
特別偉大な絵画や写真を収めるだけのものではないんだ。ということをこの時から学んだ気がしています。
そしてパリの小さな我が家でも、最近は自由に額を飾って楽しんでいます。
金色の優美な装飾の額は、12区のブロカントで確か10ユーロほどの安値で購入。
春はミモザやバラ、夏は紫陽花やヒマワリ、秋はキンモクセイ、そして冬にはクリスマスローズなど、
色とりどりの季節の花を花器に入れ、額縁の前に置くだけで、
なんだか素敵なアート作品のようにも見えて,少しワクワク。
プチギャラリースペースとして、ささやかながら美しいコーナーがお気に入りです。
もうひとつ、18世紀の貴族が描かれたクラシックなフレームは、
パリのアンティークショップで見つけたもの。
『新婚旅行』と『ロシアの月』というタイトルの版画が収められた2枚セット。
買った時には、額だけが欲しくて、いずれ好きな絵か写真に入れ替えるつもりだったのですが、
新しいアイデアもないまま時間が過ぎ、
今では古めかしくてロマンティックなこの絵が気に入ってそのままの状態で本棚の上に置いています。
子供の自由な発想のように、絵を描いたり出来たら楽しいけれど、
『時間がない、道具が揃ってない』。と言い訳ばかりの怠け者の私には、
中身のないフレームだけでも充分にアート心を刺激出来るものなのです。
Column
by 鈴木ひろこ/Suzuki Hiroko
スタイリスト・ジャーナリスト
パリの街をお散歩しながら、モード、人、もの
店などいろいろなカワイイ!を見つけるのが趣味
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