-001.ロンシャン礼拝堂と絆

4月2日、建築に興味を持った学生時代から一度は訪れたいと思っていたロンシャン礼拝堂を訪れることができた。
その日は雲一つない真っ青な空が広がる晴天に恵まれた。

天候がこれ程まで自分の経験や記憶に影響するものか?と改めて思ったくらい素晴らしい天候。
海のように青い空には、何本もの飛行機雲が気持ちよさそうに白い軌跡を描いている。

Parisでノンビリ過ごしたいという家族を残し、Parisから約4~5時間の地へ日帰りの一人旅だ。
Gare de Lyonから切符を買って7:58発のTGV-Lyriaに乗る。
そして、Dijonで乗り換えて12:00にBelfortまで辿り着く。

Belfortの駅のホームで時刻表を確認すると期せずして20分後にRonchampまでの電車が出ていることを発見、

そのまま2両編成の電車に乗り込んだ。
車中には小ざっぱりとした格好の学生風の女性と男性が目立ち、みんなRonchampの礼拝堂に行くのだろう、

と思いきや礼拝堂に向かったのは僕一人。

礼拝堂に向かう途中、地元の人らしき親子が向こうから歩いてきたので「ボンジュール」と挨拶をすると、

「シャペルに行くんだろう?」と親しげに、そして少し誇らしげにロンシャン礼拝堂までの道のりを教えてくれた。
とても仲が良さそうな、チャーミングな親子だ。

駅から5分も歩くと坂道になり、美しい樹々に囲まれた木漏れ日の美しい小径を登ってゆく。
所々に木を切った跡があり、これらは林木であることがわかる。しばらく歩くと鳥の鳴き声に囲まれていることに気づく。
鳥の効果音というのはこういうところで音源を撮るのだろうな、というほどの完璧な鳴き声。
ここをコルビジェは何往復もしながら建築のことを考えていたのだろう。

林を抜けると宮崎アニメに登場する様な田園風景が眼下に広がる。
本当に素朴で小さくて美しいロンシャンの街並み。
東京のような都会では、もはや失われてしまいつつある、家族の温かさや穏やかな暮らしを想像する。

入口を超えて上を見上げると綺麗なグリーンの芝に佇む、白い建物が見えてくる。
礼拝堂だ。真っ青な空に優しく白が映えるオブジェのような建築。
そんな青空と同じような爽やかな色の服を着たシスターたちが、周りの植栽や樹々の手入れをしている。

礼拝堂に近づくと、圧倒的な存在感を持った屋根と壁が静かにたっている。

壁面が素朴な吹き付けコンクリートを纏っている。
僕が小学生のときに住んでいたアパートが全く同じ様な吹き付けコンクリートだったこともあり、

このロンシャンの素朴な風景が、自分の少年の頃の温かい思い出と重なってくる。
友達や家族、そして学校や先生、今から考えれば、多くの身近な人たちとの温かい絆が自分を成長させてくれた。
大人になってみて、この素朴な絆の大切さが如何に大切なものだったのか、ということを思い知らさせる。

この礼拝堂は、コルビジェの晩年の作品ということだが、当時の建築界において革新的な風を起こし続け、

いわば先端的な建築を目指したコルビジェが、どんな気持ちでこの礼拝堂の創造に情熱を注いだのろうか?
僕はこう思う。
この美しい村を見て、そこに集う家族たちを見て、人々の絆が永遠に次世代に繋げてゆける様に、

素朴だか斬新な建築によって、建築が立てられた後から始まる優しい物語を描きたかったのだと。
例えて言うと宮崎アニメに描かれるような、先端の技術を使いつつも素朴なメッセージを大切に紡いでゆく物語。
素朴で温かい愛情、脆かったり、移ろいやすかったりする「絆」を守ってゆこうとする情熱と決意との様なものを、

僕はこの建築から感じた。

礼拝堂の中の美しい光の空間の一角に1枚の絵が描かれている。
抽象的なその絵の上部には何かを包み込む様な優しい「手」が描かれている。
この「手」をみて僕は涙が溢れそうになった。
うまく説明できないが、ロンシャン礼拝堂のコンセプトをコルビジェが語りかけてくるような感動だった。
時代が移り変わっても、技術がいくら進化しても、都市や街が如何に発展しようが、また壊れてしまおうが、

「人の手」は変わらず新たな場所を作り続けてゆく。
そのつくる「手」は、コルビジェの絵のように優しいものでなければならない。
そのことへの情熱をもらうことができました。

最後に、東北大地震の震災で亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、人と人との絆をより一層大切にする、

新しい日本が新たに生まれることを祈りました。
建築とはそうした人々の「絆」のシンボルであるべきではないか、ロンシャン礼拝堂は、

そんなことを語りかけてくるような場所でした。

▲写真をクリックすると大きくなります

column by 梶谷拓生/KAJITANI Takusei
エクスペリエンスデザインを仕事にしてます
技術やデザインやヒトを融合して新しい体験やサービスを創りだす仕事です
サッカーをこよなく愛し、今も地元チームのミッドフィールダーとして活動中
サッカー好きな長男、音楽好きの長女を持つパパでもあります