4月28日、「倉俣史朗とエットレソットサス展 ~夢を見る人が夢をみたデザイン~」を見に行ってきました。
以前から倉俣史朗氏のデザインが好きで、特に「ミス・ブランチ」のバラの花畑を切り取ったようなイスのデザインを見て、
倉俣氏の発想に非常に興味を抱いていました。一体、この発想はどこから生まれてくるのだろうか?と。
「ミス・ブランチ」はテネシー・ウィリアムズの戯曲「欲望という名の電車」に出てくる未亡人ミス・ブランチ・デュボアへのオマージュとしてタイトルされたもので、実はパリと関係が深い作品なのです。
幼少から欧州への憧れが強かった倉俣氏は、この作品を発想したときに、先ずパリで最初の展覧会をしたいと思ったそうです。
いわば、パリを感じながら創った作品。
さて、今回展覧会が開催された場所は東京ミッドタウンにある安藤忠雄氏設計の21_21デザインサイト。
「一枚の布」というコンセプトで屋根が一枚の鉄板を折り曲げてつくられた建築です。
緑が鮮やかに広がる芝のなかに慎ましく佇む建築、特にこの日は、真っ青な空が広がり、
ベンチで本を読む人や犬と散歩に出掛ける人がちらほら。
仕事の合間の見学だったので、1時間ほどでさっと見よう思っていたのですが、最初のコーナーにあった映像を見て、
強く引き込まれてしまい、ほとんどそこで時間を費やすことになりました。
特に「MISS BRANCHE ET L’PESANTEUR ~浮遊への憧れ~」というタイトルの30分程の倉俣氏のインタビュー映像。
写真で見ていた倉俣氏の印象とは異なり、予想以上の饒舌、少年のように夢中で語る表情にとても惹き付けられました。
そこで語られる様々なエピソード、その中でも特に興味深かった戦時中のエピソードを以下に抜粋します。
記憶とメモを頼りに記載します。「」内の言葉は実際のものと異なります故、どうかご了承ください。
「(倉俣氏が小学生の頃、疎開した農村で)空襲のある夜に山の中に隠れるんですが、ある日、敵が飛行機で空から銀紙を降らせることがありました。電波妨害の為の錫箔でできた短冊状のものですが、それが月がきれいな夜空にキラキラ光りながら、そして錫ですから何とも言えないサラサラサラといった音を立てながら降ってくるんですね。その風景を見ながら、なんて美しいんだろう?って夢中になりました。ずっと見ていたくて、山の中に立ちすくんでました。…照明弾が落ちてくると、いつもの見慣れた風景がまるで能舞台のように突然、幻想的な世界になるんです。落下傘に吊られて、ゆっくりと浮遊しながら落ちてくる。丁度、線香花火の最後の光の玉のような光がゆっくりと。…子供でも、戦争に対する生理的な嫌悪感はあるし、そのあと空襲で叔母さんの家も焼けてしまい、大変な思いをするのですが、ある瞬間、戦争には全く関係なく、こうした風景に夢中になり感覚的に魅了されている自分がいました。」
「私はなるべく専門家にならないように気をつけています。あえて成長しない、というか既成概念を持たないようにしたいと思ってます。イメージを規制概念の中に納めず、もっと自由に、既成概念をひっくり返すところまで遡って考えたいと思ってるんです。…私のデザインは、すべて子供の頃に見たり、描いたりしたイメージに関係しているんじゃないかと思うことがあります。それくらい、子供のときの記憶って大事なんです。」
以上、個人的なメモより。
なぜ「ミス・ブランチ」や倉俣氏の発想に惹かれるのか?
それは倉俣氏のデザインが、さまざまな既成概念の皮で囲まれてしまった心の芯をうまく刺激するんだろうなぁと思いました。
周りを忘れて夢中になった子どもの頃の遊びの感覚、内面に次々に描かれる夢のようなイメージの連鎖、
大人の心の芯に残っている、幼少の記憶のスイッチが刺激され、その快感が開放されるのはないか?と。
そんな思いを抱きつつ、タイムリミットが来てしまい会場を後にしました。
残念ながら、この映像はDVDなどでも販売されていないので展覧会でしか見ることができないそうですが、
いろんなエピソードが語られていて、とても興味深いものでした。
この展覧会は7月18日まで開催しています。
もちろん、ミス・ブランチ以外の倉俣氏の作品の数々やエットレ・ソットサスのインタビュー映像、
作品も見れますので加えさせて頂きます。
■展覧会の概要→http://www.2121designsight.jp/program/krst/index.html
■プロフィール→http://www.2121designsight.jp/program/krst/profile.html
個人としては、今度はじっくりと作品の方を見たいと思ってます(笑)。
column by 梶谷拓生/KAJITANI Takusei
エクスペリエンスデザインを仕事にしてます
技術やデザインやヒトを融合して新しい体験やサービスを創りだす仕事です
サッカーをこよなく愛し、今も地元チームのミッドフィールダーとして活動中
サッカー好きな長男、音楽好きの長女を持つパパでもあります