-013.平和主義は続かない?! 騒音バトルの末に <後編>

-012平和主義は続かない?! 騒音バトルの末に<前編>からの続き。。。。

我が家のポストに差出人が書かれていない一枚の手紙。旦那が開けて3枚のびっしりと書かれた手紙に目を通すと、いち目散に上の階に駆け上がっていった。そして上の階の旦那と声を高めて話している。どうやら、上の階の住人が、椅子を引く音や夜遅くのシャワーの音がうるさいなど皮肉のこもった口調で書き綴った上、その手紙をサンディカ ド プロプリアター(家主組合)というところにコピーして送ってあると記したよう。争いごとは好まず、頼んでも騒音について一度も話しに行ってくれなかった旦那。自ら迷いもなく勢いよくチャイムを鳴らす、プチ切れの瞬間であった。

 

この「家主組合」に苦情を申し立てたところで、実質何の権力も働かないようなのだけれど、これはある種の脅しや忠告になるのだそう。その次は、警察、ということもあるのだとか。普段ものごとを、ラーメンよりも伸ばし伸ばしにする旦那は、話し合いから戻ってすぐ、上の住人にこちらの騒音の事情を伝える手紙を書き、同じように「家主組合」にコピーを送っていた。その行動の早さにびっくりな私であった。

こうして優しい人たちだから、お互いさまだから、と騒音に耐え続けてきた我が家が我慢に我慢を重ねた結果、逆にストレスをためたその末に、何倍もの攻撃をくらうはめになった。思ったことはすぐに言わないと、フランスでは生きていけない。改善されないなら、何度でも、というところだろうか。フランスのアパートでの騒音問題は日常茶飯事のようで、「victem(犠牲)の割合は60%」という記事もあるほど。知人の中にも頭を抱えている人が多いこと。適度な妥協は絶対必要なのだけれど、共存しきれない境界線は誰にでもある。いい人だから、と言いたいことを言わないで度を過ぎた行動を我慢していると、泣きをみるのは自分だったりする。主張し過ぎるのも醜いけれど、人のせいにするのはいやだとか平和主義でいるとろくなことにならない。最低限のことは言わないと損をするだけすることになる。

 

その後、私たちは便のよい街中へ引っ越し、憧れていたいかにもフランスらしい古いアパートを借りた。古い―――といっても、17世紀以前からある程超古いので、当然のように隣人の生活音が聞こえてくる。床は木なので所によってはギシギシ音がする。ただ、前のアパートのように頭に響く機械音ではない、生の足音、声、といった感じで、雨の降る心細い日にはひと気を感じられて安心できるような生活音。フト思えば、今の自分の顔からは2カ月前のストレスに満ちた表情はなく、睡眠時間もぐんと伸びている。前を思えばずっと快適な生活が始まっている。

 

フランスでアパートを選ぶ際には、床がタイルになっている場合は要注意である。我が家のような椅子をひいただけで、物を机に置いただけで、タンスを開けただけで、コンッと響き渡るケースが多いよう。調べてみると数年前からタイル床は法律で禁止されているものの、まだまだ多いのだとか。また、アパートのひと部屋だけを持っている家主だった場合、騒音について相談しても隣人に言ってくれたりするケースは少ない。我が家も、「どんどん言いにいって下さい!実は私自身が住んでた時も上の人に同じように手紙を送られました!」などとひとごと扱いされていた。結果、我が家のように「直接対決」的になってしまい、気持ちよく事態を収集できなくなる。一方、アパートを丸ごと持っている家主だと、責任を果たさざるを得ないので騒音に悩んだ場合も安心かも知れない。何にしろ、「直接対決」は感情をあおるだけ。国が変わっても結局人間は同じである。こうして、私の南仏新婚生活は、休むとこなく学びだらけ。常に右往左往しっぱなしなのである。

 

column by 下野真緒/Shimono Mao

女性ファッション誌で編集に携わった後、フリーランスエディターに
2009年南仏&パリへ留学し、現在は南フランスのピレネー・バスク近郊に住む
一児の母でもあり、フランスでの子育てに邁進中
また、GLAMファッショニスタとして「南フランスにのいい予感。」にてフランスのライフスタイルを紹介中
ほか、美容サイトでフランスのコスメ紹介をするなど、フランスを拠点にマルチな情報発信を試みています