-004.不思議な街・田子坊

「この街は、画家・彫刻家の陳逸飛が1999年にアトリエを開いたのがショッピングエリアとしての田子坊の始まりとされる。

それを機に他の芸術家も当地にアトリエを次々と開き、それらを訪れる人々目当てに店舗・レストラン・バーなどが増えていった。

未開発の路地(里弄)がそのままショッピングエリアとなったために迷路のように店舗群が入り組み、探検気分の味わえるエリアでもある。

また、エリアは今でも拡大しつつある。」ウィキペディアより

この街は、不思議な街だ。東京の裏原宿のようでもあるし、欧州の街にある旧市街地のようでもある。
かと言って、そこに漂う空気は間違いなく中国であり、異国文化が混じり合った、とても上海らしい場所だ。

街を歩くと写真の様に精緻に描かれた、人民服を着た男の絵が飾ってある。
画廊だ。
すこし興味を持って中に入って見ると女性のヌードの精緻な絵がいくつも並んでいる。
こちらも凄く精緻だ。

 

工事中の店があった。
全て木材をその場で切りながら、内装の骨組みを作っている。
男たちはタバコをくわえながら、日曜大工でもしているかの様に無造作にノコギリを使っている。

 

ところどころにこじゃれたカフェがあり、外国人や中国の若者たちがノンビリした時間を過ごしている。
カメラを持った若者も多く、街並みをしきりに写している。
地元の観光スポットとしても知られた存在なのだろう。
また、子供連れの外国人も多く、上海に多くの外国企業が進出していることが垣間見える。

 

一休みしようと、カフェに入ってみた。
外国人がバーカウンターで何やら店の人と話をしている。顔馴染みらしい。
テーブル席のほとんどは中国人の若者のカップルやグループで埋まっている。
カフェラテを頼んだらキッチリとしたハートのラテアートが施されていた。

 

中国お決まりのそっくりグッズやそっくりブランドショップも界隈の中にすまして並んでいる。
ここは、細かいことを気にしない、大らかな街なのだ。

 

ここに初めて訪れた時に「泰茶林」という中国茶の店を上海に住む知人に案内された。
オーナーは確か中国人の妻を持つ、日本人だ。

 

その時に中国人の店員がお茶の「おもてなし」で迎えてくれた。
急須にやかんのお湯をこれでもか?というくらい注ぎ込み、お湯を溢れさせるのだ。
目の前で受け皿のお盆の上にたっぷりと、躊躇なく。
急須にふたをした後もさらにお湯を注ぎ込む。
もの凄く贅沢にお湯を使ってくれるので、なんだかとても「もてなされている」気分が盛り上がる。
「過剰」というのが、ここ中国の「もてなし」のベースにあるのではないかとさえ感じる。
田舎の祖母がいつも食べきれない量の料理を食卓に並べたように、暖かく、ほっこりとした空気感。

ここ田子坊は、現在と過去、西洋と東洋、先端と歴史、老若男女、アートと生活、様々な全てが「過剰」に混在しながら、とても不思議な大らかさ、温かさで溢れている。
まるで急須から溢れるお湯のように。
僕はそんな不思議な街・田子坊が好きだ。

column by 梶谷拓生/KAJITANI Takusei


エクスペリエンスデザインを仕事にしてます


技術やデザインやヒトを融合して新しい体験やサービスを創りだす仕事です


サッカーをこよなく愛し、今も地元チームのミッドフィールダーとして活動中


サッカー好きな長男、音楽好きの長女を持つパパでもあります