-005.未来を見つめる街・リンツ

第2次世界大戦後、ウィーンとミュンヘンを繋ぐ要所として製鉄業などの工業が盛んだった街・リンツ、突出すべき歴史文化がなかったため、1979年から「未来」に目を向けた活動を始める。

「アート、技術、社会」をテーマにしたユニークな活動隊「アルスエレクトロニカ」だ。いまや世界中のメディアアートの殿堂と呼ばれ、最近ではウィキペディア、ニコニコ動画の仕組みを輩出した。今回は、そのアルスエレクトロニカの年に一度のフェスティバルを体験しにリンツにやって来た。

 空港から20分ほどクルマで走って、リンツの街中に入ると大きなドナウ川がゆったりと流れる風景に変わる。時たま大きな客船が悠然と縦断し、河原ではファミリーや学生たちが散歩やおしゃべりをノンビリと楽しみ、そこは「ゆる~い空気」に包まれている。

その川沿いに異彩を放つのがアルスエレクトロニカセンター、カラフルにライティングされた建築物は小さな街にユニークさ、知的さ、新しさを醸し出す。賢くて利発な少年のような存在感。フェスティバルは、このアルスエレクトロニカセンターを中心に開催される。

 

今年のフェスティバルのテーマは「origin -how it all begins?-」。物事はどのように始まるのか?という、少し哲学的なテーマ。関連する「作品」は街のいろんな場所に設置され、町中を歩き回りながら、楽しめる。

関連して「ワイン祭り」も開催されており、グラスを片手にいろんなワインやつまみをはしごする楽しみがあり、なかなか気が効いている。このあたりの遊び心はさすが欧州。

数々の作品集のなかのほんの一部をご紹介します。

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日本や世界中から数多くのアーティストが出品、渡来する中、ひときわ興味深かったのは世界最大の素粒子物理学の研究所、CERN(欧州原子核研究機構)の科学者たちが招聘されいるところ。彼らのトークショーには、アーティストやカップル、そして子供連れの家族の姿もちらほら。最先端の科学者たちと世界各国のアーティストや子供たち、それにゆる~い空気感がブレンドされ、相当にユニークな雰囲気を醸し出している。

このフェスティバルのテーマは「origin、物事はどのように始まるのか?」だったが、会場でキーワードになっていたの「collegion(=衝突)」という意味合いのコトバ。

 CERNでは、ものすごい広大な地下の敷地を使って粒子を加速し、超高速で衝突させ、そこから生み出される新物質や現象を観察するらしい。素粒子はとても小さな物質なので衝突するのも奇跡に近いが、その奇跡的な衝

突から新たなモノや現象が誕生、発見されるのだ。なんか生命の誕生とも似ている。

 

フェスティバルのあり方も「分野や立場を超えた出会いから新しいこと、楽しいことが生まれる」ということを示唆するかのように、科学者、アーティスト、大人とこども、あるいはワイン好きの観光客など、異質な組み合わせが街の至るところで展開される。そして少し哲学的なことも、ゆる~い空気の中で考えられる街。
「未来」というはツルツルした他人行儀なモノではなく、自分たちの日常から生み出すもの、多様な人たちが集まり、いろいろと話し合いながら答えを見つけるべきところ。

そうした当たり前のことが、当たり前に感じられる、ゆっくりとした時間、ヒューマンスケールな街。

「未来」を見つめる眼差しが温かくなるような街、リンツはそんな魅力に溢れた場所でした。

 

 

info:Ars Electronica Flicker
http://www.flickr.com/photos/arselectronica/sets/72157627370246065/

column by 梶谷拓生/Takusei
 KAJITANI
エクスペリエンスデザインを仕事にしてます

技術やデザインやヒトを融合して新しい体験やサービスを創りだす仕事です

サッカーをこよなく愛し、今も地元チームのミッドフィールダーとして活動中

サッカー好きな長男、音楽好きの長女を持つパパでもあります