-015.フランス人のおじいちゃん。パートナー4人目ですが、何か?

彼のパパによる昨年末のクリスマスディナー。彼の生まれ故郷のフランス北部、私の故郷日本を意識した、フランス北部と日本の味のマリアージュがテーマ。

 

フランス人ではめずらしくないことですが、彼のパパとママンは離婚組。小さい頃から、彼はふたつの大人の人生を別々に見て、いやだな、と思うこと。いいな、と思うこと。いっぱい抱えて来たようです。私が彼のパパを紹介された時、既にパパは彼のママンの次の次のパートナーと暮らしていて、“人生で計3回の結婚後、4人目のパートナーです!”という状況に度肝を抜いたものでした。「どうしてそんなに相手が変わるのか?」と好奇心から聞いてみると、「人生を楽しみたいからだよ。次はアジア人かもしれないね。」と当時57歳の彼のパパは笑うのでした。そんな単純明快な答えにもちろん私はつられ笑いも忘れ、「典型的なフランス人のイメージだな。彼は大丈夫だろうか・・・」と、不安に思ったものです。

 

それから時が過ぎて、結婚をしてフランスに住み始めると、彼のパパのイメージも徐々に別のものへと変わっていきました。彼のパパは車で二時間のトゥールーズから月に一回我が家にやってくるのですが、一度たりともこちらが料理をするというシチュエーションを作らせないのです。当時私は妊娠していて、休日に人がくるのも億劫な状態。そんな時に、既に買物を済ませて来て、我が家のキッチンでフランスの旬な素材を使った得意料理をふるまってくれたりと、とにかく人を喜ばせることが好きな人。そしてちいちゃな初孫娘を初めて見た時は、彼の家族では最初で最後の涙、涙。感動のあまりに泣いていた、繊細な心の持ち主だということも分かっていくのでした。

 

「クリスマスディナーはガストロノミレストラン級だよ」と彼が言っていた理由も今となっては納得。私たちが寝ては食べる、食べては寝る、という状態を笑いながら、いそいそと次の料理へととりかかるのです。また、「彼のパパが来週来る」と聞いて私が嬉しそうにしていると、「美味しいものがたくさん食べれるから嬉しいんでしょ。」と、彼に半ば本心を見抜かれていたりもします。

フランスでは離婚をしても、父母両方で育てる仕組みになっていて、例えば基本母方で育てられていても、何週間かは父方の家で過ごすなど、いくら両親が仲悪くても、子どもは父母両方に会えるよう配慮されています。行ったり来たりかわいそう、という声もあったり、逆にそれは小さい頃から社会性が育まれて良いなど、意見は様々。彼に聞いてみると、それぞれの話を聞かされているうちに、「パパにはパパの、ママにはママの幸せがあって、違う方向にいくのは仕方のないこと」と納得したよう。そこに至るまでは難しい時期もあったようだけれど、一緒に両親が住んでいないとはいえ、ふたりに強く愛されてきたとう事実に偽りはなく、だからこそ無事に成長できたのだろうなと思うのです。

 

基本的に彼はママンと住んでいたものの、毎年一カ月のバカンスにはパパがいろいろな国へ連れて行ってくれて、美しいものを見せてもらったり、美味しい料理の味わいもたくさん教えてもらったり。日常はママンと質素に暮らす一方、パパが大きな世界を見せてくれるというパターンだったようです。だから、彼の中でパパは欠点があったとしても頼りになる偉大な父なわけで、付き合った当初「小さい時パパはね、パパとね、...」という話を何度も聞かされているうちに、「これはファザコンというものなのだろうか?」と心配になったこともあるほど。でも、実際に彼のパパを知るようになると、彼がパパの話をたくさんする理由が分かるのでした。

 

つくる料理はレストラン級、素材もいいものを使ったりと、とにかく人が一番幸せと感じることを共有する喜びを知っている。ビジネスの話をはじめ、話題も豊富。さらに、日本文化も柔軟に理解してくれて、寛容的。手づくりピザ屋の順番待ち途中、店員に無用ないちゃもんをつけてくる人を体を張って追い払ったりと、悪には屈しない精神。つまり好奇心が旺盛で、正義感も強く、常に息子により大きな世界を与え、求めさせようとする姿勢があるのだな、と感じるのです。それに加え、現在59歳にしてはおしゃれで背も高く、料理も上手ときたら、自然と女性にもててしまうのも事実なようです。

こうして、両親が共に暮らす私から見ると、一見「複雑」な彼の家庭環境。最初は子どもながらに両親の都合のせいで家を行ったり来たり、大変だったね、と彼をねぎらう気持ちが私の中にあったのも事実。友人に話したりすると「えーーーっ?!」と驚かれたりもします。でも、実際家族の一員となった私から見ていると、父方(彼の兄弟ほか2名)、母方(彼の兄弟ほか3名)全部そろえると家族が通常の2倍にわたるので、いつぞやは仲悪くて離婚した、という歴史はともかく、「人数が多くてなんだか賑やか!一度の行事も二回楽しめる!」という感想につきます。それだけ、私たち娘にも親戚が多くなるわけで、「フランス方々に親戚がいて助かる!」と、単純に考えるようにしています。

column by 下野真緒/Shimono Mao
女性ファッション誌で編集に携わった後、フリーランスエディターに
2009年南仏&パリへ留学し、現在は南フランスのピレネー・バスク近郊に住む
一児の母でもあり、フランスでの子育てに邁進中
また、GLAMファッショニスタとして「南フランスにのいい予感。」にてフランスのライフスタイルを紹介中
ほか、美容サイトでフランスのコスメ紹介をするなど、フランスを拠点にマルチな情報発信を試みています