-008.日本語とバルサとカレーライス

みなさん、遅ればせながら、新年明けましておめでとうございます。
昨年、年末年始にかけて、約3週間弱ほど、久しぶりに日本へ行って来ました。

本当は実は夏休みに行きたいという気持ちもあったのですが、3月の震災後の夏の電力不足を心配して、年末に延期にしたのです。震災からもう9ヶ月も立ちまし たが、日本はどんな感じなのだろう、原発事故のあとどんな影響が残っているのだろうと何ヶ月もの間ずっと心配していましたが、少なくとも東京にいる限り、 二年前とほとんど変わらない賑やかさと明るさがあって、それがかえって印象的でした。いろいろな友人知人と話をしてみると、皆あれから本当にいろいろなこ とを考え、いろいろな体験をしてきたんだなあということが分かりました。確実に日本人の心の中では何かが変わった出来事だったのでしょう。夫のダビは「もう少し半原発の動きが街でも見られるのかと思っていた」とその表層的な意味では街はほとんど変わっていないことに逆に少々驚いていましたが、ヨーロッ パのようにデモや集会を開いてマニフェストを掲げるかわりに、個人個人で節電するという行動を持ってこれからの日本のエネルギーのあり方を考えている人は 本当にたくさんいるようです。

今回の日本行きは子供たちにとっても、本当に待ちに待った2年ぶり。
特に長男の温は2年前、4歳になったばかりの時に日本へ2週間ほど行って以来「日本語というのはママ以外の人とも話せる言葉なんだ」という事実を発見して、以来バルセロナでも頑張って日本語を練習してきました。

子供の言語学習能力というのはとても面白いもので、言葉そのものもさることながら、子供たちは「言葉の使い勝手」にとても敏感です。温が2歳になってから 最初に覚え始めた言葉はたぶん日本語とカタルーニャ語半分づつくらいでした。使い分けをしないで混ぜてしゃべっていたようですが、すぐに「保育園の人たち や他の子供達には日本語が通じない」「ママはカタルーニャ語が分かるらしい」ということに気がついて、そこからはほとんどカタルーニャ語しか話さなくなり ました。私が日本語で話すと、きちんと理解して、でもカタルーニャ語で答えてい ました。ところがその4歳のときの日本の滞在で「カタルーニャ語が通じない」

「みんな日本語でしゃべっている」という特殊な状況をたった2週間だけど体 験して、もちろんボキャブラリーは少し足りませんが、すっかり日本語が話せるようになって帰ってきたのです。

 

一 方次男のイウも、3歳になるまでほぼ温と同じように「日本語を理解してカタルーニャ語で答える」という感じでやってきましたが、今回の日本旅行でやはり びっくりするほど日本語を話せるようになりました。ただ、何でもかんでも真似するので「ただいま」と言われたら「ただいま」と答え「いらっしゃいま せー」と言われたら「いらっしゃいませ」と返します。ちょっとだけ驚いたのが、その後バルセロナで保育園の先生や友達に日本語を教えているそうです。ちゃ んと「これは日本語でにんじんって言うんだよ」とカタルーニャ語で話しているそうです。これは温の時には見られなかった現象で、性格の違いを感じます。

さて話がちょっと脱線してしまいました。

 

日本では本当にたのしいことが沢山ありましたが、書いても書いても書き切れないくらいなので、ここは絞って「バルサ」と「カレーライス」の話をしたいと思います。

日 本でのメインイベントの一つは、なんと「トヨタカップのバルサ戦の観戦」!でした。そうなのです。我が地元が誇る最強のサッカーチーム、バルサがスペイン リーグを勝ち抜き、ヨーロッパチャンピオンに輝き、そして今度は世界一のチームの座を狙って日本で戦うという大事な試合が横浜で行われたのです。バルセロ ナ在住のバルサファンに当てたれた数百枚のドリームチケットを5枚入手し、子供たちと、日本のバルサファンの友人たちと日本で世界チャンピオンをかけたバ ルサの試合を一緒に観戦するという夢のようなイベントだったのです。

私たちの席はそんなわけでバル セロナからわざわざこの応援のためにやってきたツワモノ応援団と一緒のゴール裏のブロック内。とはいえ私達と同じような事情の人も多かったのか、日本人とカタルーニャ人の割合は半々くらいだったような気がします。ほとんどの人達がバルサのユニフォームやマフラーを着用していましたがなにせ冬に屋外の観戦ですから、皆セーターの上にTシャツを着たりして工夫しています。日本人の熱烈なバルサファンのその熱心さが伝わるのが、ユニフォームの背中の選手の名前。 地元バルセロナですら子供たちの着ているTシャツはほとんどが「メッシ」なのに、日本のファンはビジャだったりプヨルだったりイニエスタだったりシャビ だったり、本当にいろいろなのです。アウェイのユニフォームや数年前のユニフォームを着ている人も居て、ファンの幅と年季を感じました。試合も応援も本当に盛り上がり、バルサは南米の王者であるサントスを4−0の圧勝で下して見事世界一に輝きました!温はその熱狂にすっかりたじろいでしまい途中から帰りた がったりしていましたが(無理もないことですが)、イウの方は予想外に楽しんで(試合自体はまったくわかっていないと思いますが、バルサが勝ったということは分かった)バルサの応援歌を歌い、他の日本人のファンの子供達とすっかり仲良くなって一緒におやつを食べたりなどしておりました。

滞在中、バルセロナでは絶対に食べることのできないおいしい料理を本当にたくさんいただきました。年末年始の帰国は私も10年ぶり以上だったので、おせち料理やつきたてのお餅には本当に感動しましたが、子供たちにとっての日本での一番の食の発見はなんと「カレーライス」。これまでもバルセロナで何度か日本から調達した子供用の甘口のルー(バルセロナではもちろん貴重品です)を使って作ってきたのですが「茶色いクリームに野菜らしき得体の知れないものが入っている怪しいご飯」という感じでいつもなんだか嫌がってほんの少ししか食べませんでした。ところが日本へ来て実際に「日本の子供たちはカレーが大好き」という事実を目の当たりにして衝撃を受けたのでしょう。普段まったく大食いの気配を見せない温がカレーライスを3杯もおかわりしている姿を見て、親の私達も少なからぬショックを受けました。日本へ行く前温は「日本ではお刺身とお寿司をたくさん食べたい」と言っていたのですが、日本へ行ってバルセロナへ帰ってきたら本当に毎日のように「カレーライス食べたい」とねだっています。イウも、そんな温を真似て、おままごとで作るメニューはいつもカレーライスです。 そんなわけで子供たちに野菜を切るのを手伝ってもらいながら、毎週のようにカレーを作って食べるようになったのでした。

写真はいろいろな楽しい思い出についてです。
では次回までみなさん、ごきげんよう。

Column by Tomoko SAKAMOTO
建築とデザインの出版社Actarにて編集の仕事をしながら
カタルーニャ人でグラフィック・デザイナーのダビ・パパと一緒に
「遊んであげない。一緒に遊ぼう!」をモットーに
6歳の温(おん)と2歳のイウ、の二人の男の子を育てています