4月上旬、こちらではセマナ・サンタ(イースター)がありました。ちょうど日本で言うゴールデン・ウィークのような大型連休でもあり、子供たちの学校では、9月から始まる一学年三学期のうちの、二学期が終了して三学期目が始まる前の休みになります。学校でこれまで勉強してきた勉強のノートや図画工
作のアルバム、簡単な通知表のようなものも貰って「素敵なセマナ・サンタを!」と言って、手を振って別れるのです。
そして私達家族の今年のセマナ・サンタのメイン・イベントは、なんと引越しでした。 バルセロナ市内で、旧居から新居まで徒歩15分くらいの近場ですが、最終的に運んだ荷物は大きな家具を除いてもざっと300箱以上!こんな狭い家のどこにこんなにたくさんのモノが詰まっていたのか不思議に思うほどです。
そしてその引越の前日は、バルセロナの建築家協会で行われた「子供とつくる紙管シェルター」のワークショップに参加してきました。組立中は「親立 入禁止」なのでプロセスは残念ながら見られなかったのですが、日本人建築家の坂茂さんの、東北の震災後の仮設間仕切りに使用されたものとほぼ同じ方法でス
ケールを小さくしてシェルターを作り、そこに子供たちが自分で絵を描いた窓やカーテンや庭などを加えて作りました。本当は対象年齢4歳以上だったのですが、3歳のイウもこっそり参加させてもらって、彼なりに頑張って色を塗ったりするのを手伝っていたそうです。数人づつに別れて数個のシェルターを作っていましたが、やっぱりおうちを作る遊びは本当に楽しい!みたいでどれも皆子供たちならではの素敵なディテールにあふれていました。郵便受けがあったり、カーテンに雨の模様がついていたり、大きな四角い窓のかわりに、小さな三角の窓が沢山ついていたり、庭や壁に花が咲いていたり。このワークショップを企画したのは「アーキキッズ」という、子供のための建築ワークショップを開催するプロフェッショナルの人たちなのですが、彼らの、子供たちのクリエイティヴィティを引き出す力はさすがです!
最後にこんなかわいいペロペロ・キャンディも貰ってしまいました。 イウはもう顔中ベタベタで真っ赤です。あーあ・・・。
一方温はアメをかじりながら他の班のシェルターにバルサのロゴが付いているのを見つけて「ここは青じゃなくて白だし、ここの線の数は5本だったと思うなあ」と余計なツッコミを入れていました。 恐るべし子供の記憶力。
そして翌日は子供たちを友人家族に預けてピクニックに行かせ、親たちは引越しの大仕事。 夕方子供たちが家に帰るとそこはすでにがらんどうで、新しい家には見慣れた家具がぎっしりつまっています。 それから数日は毎日家具を組み立て、箱を開けて整理整頓の日々でしたが、しばらくすると、玄関に引越しに使ったダンボールがたくさんたまっています!
そこでそのワークショップを思い出して、早速家でもダンボールハウスを作ってみました。 ストラクチャーは大きな箱をつなげて一箇所を出入り口にするだけ。大人は入れない大きさです。 クレヨンで色を塗ったり、シールを貼ったり、新聞を切り抜いて貼ってみたり。けっこう真剣です。
ワークショップの時はディテールがそれなりにリアルだったのに、自分で好きに作っていい、となると、もうちょっと抽象的なデザインが好きなようです。 イウも好き勝手にぐちゃぐちゃ塗っているように見えますが、彼なりに色を厳密に選んで、手伝おうとすると真剣に怒ります(笑)。
そしてホームメード・ワークショップのあとは、イウの大好きな「サン・ジョルディごっこ」がはじまります。
サン・ジョルディはバルセロナの聖人で、彼が死んだ4月23日に、カタルーニャでは愛する人に本とバラの花を贈るという素敵な習慣があります。このイベントは日本でも本を贈る日として少し紹介されていますが、本場のこちらでは、本と同様かそれ以上に重要なのはバラの方。なんとバラの年間売上のうち の40%がこの日に消費されるというくらいの勢いで街中がバラで埋め尽くされるのです。
温とイウが学校と保育園で習ったサン・ジョルディの伝説は、こんな感じです。
昔々、火を吐くドラゴンが街にやってきて、街や田畑を焼いて人々を苦しめました。人々がお城に逃げ込んできて王様に助けを求めます。ドラゴンは、 「生贄として若くて美しい姫を差し出さないとお城も人々もみんな焼き尽くしてやるぞ」と王様を脅します。王様は困り果てて、王室の娘たちすべてにくじをひ
かせるのですが、生贄に当たってしまったのはなんと自分の娘のビオレッタ姫。しかしそのビオレッタ姫は「神様がそう望むなら」と潔く次の日にドラゴンの元 へ行くのです。ドラゴンが姫を焼いて食べようと火を吐いたとたん、サン・ジョルディという騎士が現れて、盾で火を遮り、決死の戦いの末、長い槍でドラゴン
を倒します。ビオレッタ姫はサン・ジョルディに近づき、感謝と安堵の涙を流すとその涙がドラゴンの血の上に落ち、そこからバラの花が咲きます。それをサン・ジョルディは姫にささげると、また旅を続けるために国から去っていくのでした。
つまり、バラは出てくるのですが、本は出てこないのです。ひょっとしてこの伝説自体が本の形をとって広まった習慣なのかもしれません。イウは保育 園でその話をしてもらってなぜかいたく感激してしまったらしく、それ以来ほぼ毎日一回「サン・ジョルディごっこ」をしています。マントをして、胸に赤い十
字を付けるだけですが、槍になるものをなんでも持って、ドラゴンを成敗するために一人勇敢に戦っています。すごい男の子っぷりだなあと思うと同時に、温はそういう気配をまるで見せないのがむしろ驚きです。
子供たちは新しい、そして少し広くなった家で毎日走りまわって遊んでいます。ワークショップのことといい、引越しのことといい、家、あるいはホームらしい何かを作ること、についてたくさん考えさせられた春でした。家づくりごっこの遊びは、これからも長く子供たちと続けていきたいと思っています。
ではみなさんまた来月まで、ごきげんよう。
Column by Tomoko SAKAMOTO
建築とデザインの出版社Actarにて編集の仕事をしながら
カタルーニャ人でグラフィック・デザイナーのダビ・パパと一緒に
「遊んであげない。一緒に遊ぼう!」をモットーに
6歳の温(おん)と3歳のイウ、の二人の男の子を育てています
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絵美子 (日曜日, 15 4月 2012 22:35)
素敵なコラム読ませてもらいました。
ちなみに私は4月23日産まれです。
バルセロナで初めて住所登録に役所へ行ったら、窓口の女性が「あなた、サンジョルディ産まれなの?バルセロナで一番大切な日なのよ!!知ってる?」って言われ、産まれた時からここへ来るべくして来たのかな?ってちょっと嬉しくなりました。
でもそんな伝説があったとは。。。
今年は海美とサンジョルディごっこして遊ぼうかな!
トモコ (火曜日, 17 4月 2012 16:07)
エミコさん!わ〜コメントありがとう!サンジョルディ生まれなんだね!海美ちゃんはたぶんお姫様の役をやりたいだろうから、イウと一緒にサンジョルディごっこをしてやってください。また公園で会おうね!