#予告 ゼロ回
夏休みが、もうすぐおわる。
永遠のなにか、が終ってしまうみたいな気がしてしまうね。
ずっと続いたらいいのにな、夏休み、って思ってる?
たのしかった?
夏休み・・・
夏休みの想い出は、
その時のみんなの笑顔、
音やにおいや、
肌の感触。
キーンて足首が痛いほど冷たかった沢の水。岩のうしろには赤ちゃんみたいな蟹が隠れてた。
夏の妖精は、真夏の夜にだけあらわれて、キャンプファイアーの火の粉になって踊るんだよ。
プールサイドの休憩時間、水で絵を描くと、一瞬にして消えるんだよ。
「おやすみなさい」のあと、耳を澄ますと聴こえてこない? 鈴虫の羽音と風鈴の合唱。
線香花火よりロケット花火とかする人たちのほうが「かっこいい」と思ってた。
ごわごわして好きになれなかったなあ、おろしたての甚平(じんべい)さん。でもね、「粋(いき)」なんだよ。
部屋の電気を暗くして、四谷怪談(よつやかいだん:昔の日本のこわーいお化けの話)の映画鑑賞。
みんなでごろごろ板の間に寝転んでみてたら、誰かがわたしの首に手をまわして・・・きゃ〜!
お盆(ぼん)のお飾りって知ってる?キュウリの馬や茄子の牛がおかしな形でできてるの。でも遊んじゃだめなの。
幼稚園のお泊まり会の夜、好きな男の子の隣に寝たの。
ドキドキして暑くても、冷えちゃうからおなかにはタオルケットかけなきゃいけないの。
湖にドボンして、公害にならない石けんで髪の毛を洗ったの。
すいかのたね飛ばし競争、トウモロコシを1列だけきれいに食べる競争、したの。
八幡さまの縁日の夜、神社は不良の雰囲気がするの。境内の裏は、行っちゃいけないの。
叱られた想い出もいっぱい。
サマーキャンプの消灯後、友だちの部屋でおしゃべりしてたら先生が見回りに来て、
隠れようとして二段ベッドの上から飛び降りたの。
ぶざまに落っこちて、足をねん挫して、みつかっちゃって、叱られたうえ、遠足にも行けなかった。
算数ドリルの宿題やったら遊びに行ってもいいってママに言われたから、ズルして電卓使ったの。
あまりにも早く終っちゃったからバレて、その日はおうちでお留守番。しかも宿題2倍の刑!
それからもっと大きくなっても夏休みはあったのに、
わたしの夏休みの想い出は、
少女のころの想いでがいちばん鮮やかに残ってる。
なんでなんでしょう?
それはたぶん、
いつもより少し長く起きていられたり、
知らなかったことを教えてもらったり、
’はじめて’のことがたくさんあったからなんだろうな、と思う。
夏休みは特別なことがたくさんあるよね。
だから、夏休みにみんなたくさん、たくさん、成長する。
冒険するから、そのぶん、成長する。
ひまわりだって、冒険してるのかもね。
あれから’おとな’という生き物になったわたしの今の生活といったら、
これはもうずっとずっと夏休み、
みたいな生活を、お絵描きしながらもう何十年もおくっているの。
あ、もう、大きくはならないけどね。
冒険は、してるけどね。
すいかのたね飛ばし競争とか、まだしてるけどね。
でもね、心から、思うよ。
きみたち’こども’という生き物たちに告げよう。
夏休み、終った方が、ありがたい!
終るからこそ夏休みは、特別!
その、特別に、感謝!
きみたちも、今年の夏休みの想い出を、ずっと大切にね。
来年の夏休みは、今年できなかった事がもっとできるようになってるよ。
もしかしたら今年できた事とはちがう事ができるようになってるよ。
たのしみだね。
来年の、夏休み。
うえの絵は、
アフリカの、ケニアの、ラムーっていう島から、昔ながらのちいさな帆かけ船に1日以上乗って行く、
マンダ島っていう、だれもいない島の浜辺で描いたスケッチだよ。
え、ずっと夏休み、も楽しそうで、いいじゃん!て?・・・
うん。まあね。
わるくは、ないね。
じゃ、こんなわたしからきみへおくる手紙 『ちいさなわたしと今のわたし』 これから よろしくね。
電卓使っちゃ、だめだよ
ユリより 愛をこめて
column by 下條ユリ / Yuri Shimojo
ボヘミアンな画家
丙午の春、東京都三鷹市生まれ
”売れっ子イラストレーター”時代の’96年にあっさり渡米
以来、ブルックリンとマウイの秘境という両極なジャングルで暮らしている
www.yurishimojo.com
波瀾に富んだ生い立ちの記『ちいさならくがき』(たまうさぎbooks)は知る人ぞ知るカルト本して復刊
おとなびたこどもたちへ捧げる『ちいさなわたしと今のわたし』連載スタートと同じくして
こどもじみたおとなたちへ捧げる『絵そらごと』(CLUBKING)の連載もスタート
震災後1年目のインタビュー『ニューヨークで感じたafter 311』
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