-021.ビズを拒否した恨みは恐い?保育園はまるで大きな海

我が家の2歳児がちいちゃな社交場である保育園に通い出し、語彙のインプットキャパの発達や食べる量が見る見る増えてゆくなど、目まぐるしい成長に毎日驚かされている。保育園に本格入園する前の1週間は、ママン付き添いのもと園内で遊ぶ体験保育に参加。それまでは四六時中べったりだった為、今思えば過保護だったくらいの私は、2歳児が他の子どもに近づく度にぶちはしないか、逆に痛いことをされはしないかとドギマギしながら遠くから息を飲んで見張っていた。そう、保育園で過保護はいけないと心に誓い、少し遠くからじぃっと見ていた。

 

その時小さな出来事が起こる。3歳くらいになる二回りも大きな男の子が、初めて見る我が家の2歳児にビズ(bisous=キス)をしようとしたが、2歳児が嫌がって後ずさりをした。それでもその男児は2歳児にビズをしようとし、攻防を繰り返した結果、2歳児は男児のあごに手を軽く当ててビズの攻撃をくい止めた。ヒヤヒヤしながら離れて見張るママン。2歳児、逃げろ、逃げろ、と内心はかなりおだやかでない。フランスでは、ビズの習慣は小さい頃から身に付くもので、我が家の場合は1歳半くらいから「ビズ?」と言うとその意味が分かるようになっていた。最初はママンとパパにだけ唇を差し出してくれたものの、何かがイヤだったのだろう、しばらくするとほっぺを差し出すようになり、終いにはドゥドゥの犬やくまちゃんを押し当ててくるようになった。ちょっと気が向いた時にだけ、唇でビズをしてくれるため、ママンにもパパにも2歳児のビズは重宝すべきものなのである。時に、お母さん同士が友達だったりすると、別れ際に「ビズは?」と言うと遊んでいたお友達にほっぺを差し出すか、ほっぺにビズをするようになった。ただ、会ったばかりの子とビズをするのはどうも好かないようである。これは大人の私でも同じである。

 

保育園や幼稚園では、ビズをしたがる子、したがらない子がやはりいる為、その都度「相手がしたくなかったら強制しないように」と言い聞かせているよう。

 

こうして、2歳児が男児のビズをかわしてホッとしたのも束の間、ビズを拒否された男児は腹の虫の居所が悪いのか、2歳児が遊んでいるものを取り上げたり、意地悪根性をむき出しにしている。がんばれ、がんばれ、と、ドギマギしながら見ていると、そのうちおもちゃのプラスティックのフォークを、ちいちゃな2歳児の顔に刺すような格好で近づけているではないか!ずうっと我慢していた私は、思わず「NON!NON!NOOOOOOOOOON!!!」と徐々に大きくなってゆく声と共に立ち上がり、その出来事を収集するに至る。その時私の横には、他の子ども達の顔に水性ペイントで、呑気にメイクを施している保育園のスタッフ達の姿が。少し2歳児たちの方を振り向いてから、すぐさまメイクに没頭。「ここ、大丈夫なのかな?」と大分不信に思い、その日は心配でなかなか眠りにつけなかったのであった。しかし、翌日の体験保育でさりげなく起こった出来事を告げると、男児の親に話して対処してくれたよう。また、17時という時間帯は18時に閉園となるスタッフ達にとって疲れがピークに達する時間ということも感じ取り、お迎えは16時半までにしようと心に決めたのだった。フランス人はのんびり一点集中型とは言え、幼児が群がる場では臨機応変に鋭敏に動いてほしいのであるが…。

 

小さな我が子が家という狭い巣をたち、外の雨風にさらされるのは心配で仕方のないこと。まだうまく話せないうえ、日本語とフランス語がごちゃまぜ。ママンしかその理解不能な言葉や身振りをわかってくれない。パパでも2歳児の要求が分からないことが多いのに、プロとは言え他人に全てを任せるのは考えれば考える程不安だったりする。でも、そのちいちゃな手と瞳とハートにこめられた未知なるパワーを信じて、井の中の蛙を大海へと毎日送り出してやろうではないか、と思うのだった。

column by 下野真緒/Shimono Mao
1977年東京生まれ
南西フランス在住ジャーナリスト
女性ファッション誌で編集に携わった後、2009年南仏&パリへ留学
2010年6月にフランス人と結婚。新人ママの道、激進中!
「MYLOHAS」海外ロハスニュース、「GLAM」ファッショニスタほか