丘の上のてっぺんに崩れたお城の跡と教会があり、
それを囲むようにかわいらしい家々が立ち並び、
白煙もくもくの蒸気機関車がゆっくり走る光景。
良く晴れた日で、木漏れ日と穏やかに流れるキラキラ光る川、
そこにやってきた呑気なカモの家族とぐるりと空を旋回するカモメ達。
今、この瞬間がすでに思い出となり少しずつ色褪せて行く。
思えば遠くに来たもんだ、とイギリス中北部の小さな町で想う。
この何百年も変わらない小さな美しい城下町で暮らす人々も
寂しさと嬉しさとを抱きしめながら日々生きているのだろうか?
ドキドキと心がざわめくような品揃え、
かつ良心的な値段の魅惑のアンティークショップと遭遇するも
なんと一銭も持ち合わせていなかったというオチ。
陶器のトースタースタンドと赤い革ベルトの付いたピクニックバスケット、
深緑のシルクの感じのよい刺繍の巾着袋。
クリスマスの頃にきっとまた訪れようと心に誓う。
寒々しくて足がなかなか向かないイギリス北方面の地に
こんなにも美しい町が幸福な佇まいで存在している事、
この北の町とわたしの人生が交差した偶然に感謝した。
古いパブでビールを飲みながらステーキを食べた。
とても楽しい週末だった。
日が暮れてまた太陽が昇っても、わたし自身は何も進んでいないように思う日常。
若い頃は必死で走り、そこに何があるのか知りもしないし知ろうともしなかった。
人生も折り返し地点な今は、立ち止まりそこに何があるのか目を凝らして探す日々。
時に途方に暮れながら。眼鏡をかけてもそう簡単には見えない。
そんな日々の暮らしの中で「世界は広いのだ!」という事実がいつだってわたしを勇気づけてくれるのです。
のどかな真昼のBridgnorthにて人々の暮らしぶりや文化、
気の遠くなるような歴史ある町並みを見て、
明日へと向けまた一歩前進できたような、そんな気がするのです。
column by Masae Lamsdale/ラムズデール 昌栄
グラフィックデザイナー/1973年広島県生まれ
都内デザイン事務所勤務を経て、2000年より独立
夫と4歳になる息子、蒼一郎(そういちろう)とイギリス在住
ヴィンテージのデザインやタイポグラフィ、家具が好きで
グッドデザインに基づいたバイイング活動も始動中
イギリスデザイン・ヴィンテージのオンラインショップ&Stillをオープン
http://www.andstill-vintage.com/
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