-019.Being Tapies & Mediterranian Art lesson

みなさんこんにちは。

少しご無沙汰してしまいました。

寒くなってから学校でインフルエンザが流行り、まず子供達が一人づつかかって、大人にも伝染り、一段落した所でもう一巡、という感じでなかなか家族全員の体調が揃って良くならない日々というのは辛いものです。

楽しいはずのカーニバルも結局次男のイウの方がお休みしてしまいました。

 

そんなわけでやっといつもの日常が戻ってきたこともあり、今日は、子供達の普段の、その中でも面白い授業の話をしたいと思います。

 

バルセロナには有名なアーティストや、訪れたら是非訪ねたい様々な素敵な美術館がありますが、それらは決して旅行者たちだけが楽しむものではありません。ガウディやピカソ、ミロ、ダリ、タピエスといった地元に生きた天才たちが残してくれた遺産を、学校でも利用しない手はないのです。イウがまだ保育園児だった頃も、保育園から歩いて行ける距離にあるピカソ美術館までみんなで手をつないで行き、絵を見た後は自分たちでも絵を描くという素敵なイベントがありましたが、今度は学校で、「タピエスになろう」という2ヶ月くらいも続く素敵な美術のレッスンがあったので紹介したいと思います。

 

アントニ・タピエスは、バルセロナが誇る偉大なアーティストの一人で、モデルニスモの建物の上に針金で作った巨大な雲を載せたタピエス財団美術館を始め、街の様々な美術館や要所で彼の絵画や彫刻を楽しむことができます。カタルーニャ自治政府庁舎の会議室に飾られた彼の絵は頻繁にニュースの背景として出てきますし、シウタデリャ公園の脇にも大きな水の流れる彫刻があり、バルセロナに住んでいる人なら誰でも彼の作品を日常的に見る機会があることでしょう。残念ながら彼は昨年88歳で亡くなりましたが、裏を返すと、本当についこないだまで、私たちはこの偉大で歴史的なアーティストと同じ街で暮らしていたということでもありました。

 

学校の授業では、小さな子供達に彼のことを「天才」や「巨匠」として教えたりするようなことはもちろんしません。けれども、芸術家としての彼の作品だけでなく、どんな顔をしていたか、どんな字を書いていたか、バルセロナで生まれて亡くなったことや、そして絵を描く時に絵の具だけでなく粘土や土、砂、テキスタイルから家具の一部のようなものまでさまざまな素材を使って描いたり削ったりして絵を描いていたことを、教室でいろいろな本や写真を見せながら、そして実際に美術館へ行って子供達に教えてくれます。そしてみんなでタピエスの絵をたくさん見た後で、今度はタピエスに何か習いながら、自分たちも絵を書いてみよう、というワークショップのような授業を、色やテーマ、素材を変えて2ヶ月間、何度も何度も行うのです。

 

コンフェティ(小さく丸く切られた花吹雪用色紙)を使って紙を飾ってみたり、布や木の枝を使ってコンポジションを作ったり、タピエスがモチーフとしていた記号(プラスやマイナス、アルファベットやローマ数字など)を組み替えて書くように絵を描いたり、ある作品に使われている2、3色だけを使って絵を描いてみたり、砂を使ったり、水を弾く素材を貼り付けてその上から絵の具を乗せてみたり、手を変え品を変え、いろんな絵を作っていきます。いつもの白い紙に、絵の 具やクレヨンで自由に描く絵ももちろん素敵ですが、この「タピエスみたいに」という条件付きで限定された素材や色やテーマを使って子供達に絵を描かせてみると、本当にびっくりするくらい、逆に子供達の自由な発想でどんどん違う絵が出てくるのが毎回見ていてとても面白いです。先生たちが今日はどんな風にタピエスのまねをしようか、何を使ったら楽しいか、を沢山考えてくれているのが伝わってきます。そしてイウは家で黒板や白い紙に自由に描いている時も、この授業のあとしばらくの間は、文字や記号を入れたちょっとタピエスっぽい絵を描いたりしていました。

 

一方7歳の温のクラスでは、最近、マルセイユからやってきたフランス人アーティスト/写真家のJean-Paul Le PiouffさんとSébastien Cailleuxさんが、「私たちの海、地中海」をテーマにして素敵なワークショップを数日に渡って行なってくれました。この時はまずは海(つまり地中 海)へ行って絵を描いたり、ピカソ美術館でピカソの描いた海の絵を見たり、その後ピカソが本当に絵を描くのに使っていた画材(パステル)を使って黒い紙にみんなで絵を描いて、それを写真家が、子供達と一緒に撮影してくれるという素敵なイベントに発展して行きました。面白かったのが、子供達にとっては、おそ らくいつも見ている海を「地中海」と認識するのはほぼ初めての体験。フランスから来てくれた彼らが「私の町にある海もここと同じ地中海です」と言い、それ を先生がカタルーニャ語に訳してくれるのですが、そういう特別な会話を通して、地中海は(というかそもそも海という存在そのものはみんな、ですけれど)いろいろな国とつながっている、ということを子供達がスケールをいっぱいに引き伸ばして想像しながら等身大で理解できたのもすごいことでした。その海の絵を描く遠足に行った日、温は「ビーチに遊びに行った」ではなく「地中海を観察してきた」とエラそうに行って帰って来ましたし、ね。

 

そしてこの写真は、絵の前にガラスを置いて、その前に子供を立たせて、その後ろから、絵と子供がどちらも映るように工夫して撮った写真なのだそうです。フォトショップで加工しなくてもこんなにアーティスティックな写真が撮れてしまうのですね!(緊張のため表情は固めですが・・・)

バルセロナでは、週末を中心にあちこちで面白い子供のためのワークショップをやっていて、時々私達も参加して楽しんでいますが、いつものクラスのみんなと、 学校でみんなでやる授業の中にこういった特別な体験を組み込んでもらえるのは本当に素敵でありがたいことだなあとしみじみ思っています。そして、実は身の回りにあっていつもなんとなく素通りしてしまっている「すごいもの」を、きちんと子供達に伝えてあげたいなあ、とあらためて思わされるのでした。

 

まだ少し寒い日が続きますが、みなさんどうか体調管理に気をつけて、良い春をお迎え下さい。

 

Column by Tomoko SAKAMOTO
カタルーニャ人でグラフィック・デザイナーのダビ・パパと一緒に
ブック・デザインとその周辺を手がけるSPREAD(www.spread.eu.com)
というスタジオを主催する編集者・ママのコラムです
「遊んであげない。一緒に遊ぼう!」をモットーに
7歳の温(おん)と3歳のイウ、の二人の男の子を育てています