「新しい常識で都市に住もう」というテーマで東京・青海で開催されている「HOUSE VISION 2013」展に行ってきましたので、今回のコラムは、その模様をスケッチしてゆきます。仕事の関係でデザイナーの原研哉さんとお話しする機会があり、そこでご本人が企画プロデュースを行う「HOUSE VISION 2013」展のことを知り、非常に興味を持ちました。日本の都市での未来の暮らしを様々な企業とデザイナーがコラボレーションして提案する、いわば未来の「家」の展覧会。「日本人の美意識や価値観は世界に誇るべきモノ。様々な価値観が大きく変わろうとしている今、家や暮らしは、その美意識の表現の舞台になってゆくべし」。そして、それは「世界へ輸出すべきもの」といったようなお話が、とても強いインパクトで僕の心に突き刺さったのです。
「HOUSE VISION 2013」展は、以下の企業×デザイナーの7チームの「家」で構成されています。
(0) 会場構成:隈研吾氏
(1)「住の先へ」 LIXIL×伊藤豊雄氏
(2)「移動とエネルギーの家」 HONDA×藤本壮介氏
(3)「地域社会圏」 未来生活研究会×山本理顕氏・末光弘和氏・仲俊治氏
(4)「数寄の家」 住友林業×杉本博司氏
(5)「家具の家」 無印良品×坂茂氏
(6)「極上の間」 TOTO・YKKAP×成瀬友梨氏・猪熊純氏
(7)「編集の家」 蔦屋書店×東京R不動産
ゆりかもめが青海駅に到着する間際でモノレールの窓から大きなテントが広がる会場が見えてきます。改札を出て右に曲がると、そこが「HOUSE VISION 2013」展の展覧会場の正面。会場は、建築家・隈研吾氏が設計した、杉の角材で構成されたウッドデッキ回廊の空間。ほのかな杉の香りが漂い、日本らしく清々しい印象を際ただせます。
「住の先へ」 LIXIL×伊藤豊雄氏 「移動とエネルギーの家」 HONDA×藤本壮介氏
原さんのナビゲーションで見学がスタートしました。
(↑右)まずは、一つ目の提案。ここは「懐かしい未来の家ということで土間や縁側のような開放感のある場所と密閉された居室や蔵を併せ持ったメリハリある暮らしが描かれています。縦格子の引き戸に可動のルーバーが使われていたり、様々なところで伝統的な機能を今の技術で進化させています。なんとなく、小さい頃によく遊びに行った、京都の祖父の家の縁側を思い出しました。おじいさんと父が2人で熱心に碁を打っている、祖母が庭の植物の世話をしている風景。縁側とか、土間には、どこか記憶にある風景を呼び起こしてくれる効果があるようです。
(↑左)次に見えてきたのは、大きな切妻フレームの家。建物の手前のスペースでは、電動の椅子に乗った女性が気持ち良さそうに家の周りを移動しています。これは「UNI-CUB」という座ったまま自在に移動できる、HONDAが提案する新しい移動体。家のなかでの活動自体がなんだかとても楽しそうです。
「地域社会圏」 未来生活研究会×山本理顕氏・末光弘和氏・仲俊治氏 /「数寄の家」 住友林業×杉本博司氏
3つの目の展示は、街の模型です。500人で住む「イエ」がそのまま「街」になっていて、エネルギーやゴミ処理をはじめ、介護や子育て、お店や教室など、住みヒトがみんなで共有してゆくような暮らしが提案されています。凄くアジア的なカオスと新しさの両方の印象が伝わってくる都市の模型です。おそらくシェアハウスと同じような感覚が街全体に広がるような都市。こうした都市が広がると、自然に「コミュニティ」がつくられ、住み方が変わるとともに働き方が変わったり、会社のあり方が変わったり、あるいは家族のあり方が変わったり、いろんなコミュニティのカタチにも影響しそうです。
(↑右)4つ目の家は、突然、趣き深い日本庭園の中庭や茶室を併設した「数寄の家」。竹ぼうきでできた生垣や繊細な縦桟の障子、そして日本庭園に定番の五輪塔(立方体+球+四角錐+半球+楕円球)を分解してデザインされた椅子など、日本の伝統的な室礼(しつらえ)をユニークなカタチで再構成し、今的な「数寄屋」の世界を創っていました。シンプルなのにとても贅沢な味わいがあり、開放的なのに背筋が伸びる感じがする住まい、個人的には非常に魅力を感じた「家」でした。
(↑左)次の家は、まったくユニークな発想なのですが、家具でできた「家具の家」。要は、すべての壁や柱が家具でできている家です。ここは無印良品が絡んできるのですが、とても無印らしさを感じるアイディアです。家具の上に屋根を乗っけて完成するので、いろんな間取りが家族の成長とともに自由に組み替えられるのでしょうね。面白い発想です。
「家具の家」 無印良品×坂茂氏 /「極上の間」 TOTO・YKKAP×成瀬友梨氏・猪熊純氏
次は「極上の間」。トイレを徹底的に極上に仕立てた「家」です。TOTOが絡んでいるせいか、少し企業色が強い印象を持ちました。しかし、トイレという場を緑で覆い尽くし、清潔と快適を突き詰めると、それはそれで潔癖な日本らしさな感じが漂う面白さがありました。
最後は「編集の家」、この展覧会のオチにふさわしく、すべて住むヒトが「家」を編集してゆけるような家のあり方をカタチにしてみせた家です。これを手がけている東京R不動産という建築プロジェクトのチームは、東京の様々な規格外、あるいは眠っている不動産案件をリノベーションで面白く活用してゆこうとする集団。一方で蔦屋書店は、書店やレンタルDVDだけでなく、実は生活を編集するツールを世の中に提案してゆく「カルチャーコンビニエンスクラブ」でもある訳で、両者ともに同じような発想をルーツに持つチームでもある訳です。ここではキッチンテーブルを家の中心におき、様々なコミュニケーションがキッチン(手前)で行われ、個々の作業は可動式のオフィス(億)で行う、といった家族の暮らしが描かれていました。この家は、内装を全部スケルトンの状態にして、予算800万円で住み手たちが中心となって住処をつくりあげていった、という想定になってます。我々が、通常、家を選択する際に「面積は?」とか「何LDKなのか?」、いくつ部屋があるのか?などという固定概念に、いつの間にか縛られていたことに気づかされます。
自分たちで住処をつくるための道具や材料、職人などが詰まった「ツールボックス」の提案が次の部屋に用意されていました。一生に一度の高い買物である「家」が、何度でも着替えるファッション、あるいはクルマのように、スタイルや嗜好の変化に合わせて、気軽に暮らし変える「暮らし方」。日本で、そんな個々の「美意識」に基づいた新たな暮らし方が広がってゆくと、それぞれの住み手の「家自体がミュージアムのようで、面白いだろうなぁと思いました。
全部を見終わっての感想ですが、これだけの規模の展覧会を建築家ではない原研哉さんがスポンサーや建築家を集めながら、自発的に情熱を持って開催していることに大きなエネルギーを頂いた気がしました。
この展覧会の会期は3月24日まで、場所はお台場の青海駅前です。また、国外にも展開する予定もあるそうです。これから新しい暮らしを選択したり、提案したりする人には、是非見てほしい、おすすめの展覧会です。
最後に、HOUSE VISION展のホームページの文章を抜粋して、今回のスケッチを終わりにします。
「新しい常識で都市に住もう」これがHOUSE VISIONの理念です。
日本の都市、特に東京は、江戸時代から最大人口を持つメトロポリス。ここで営まれてきた暮らしは、経済成長の峠を超えた今日も、そして未来も資源にあふれ、可能性に満ちています。ここに私たちは、未来資源をさがさなくてはなりません。まずは「家」です。明治以来、近代化、つまり西洋化に向けて走り続けてきた日本は、マネーだけでは幸せがつかめないことを学びました。日本の伝統や価値についての自覚も芽生えています。そんな21世紀の日本という土壌に、どんな木を植え、どんな果実を収穫するか。一方では、日本のものづくりも変わろうとしています。テレビや冷蔵庫といった単品から、家そのものが総合家電へと進化しはじめています。やがて電力供給から通信・移動のシステムを含んだ大きな仕組みがハード、ソフトの両面でつながっていきます。その結果を、「住まいのかたち」に探ります。コミュニティも土地や建築の価値も、すべてを本質において捉え直す必要があります。そして「家」を軸とした新しい都市の独創性を生み出し、海外へ発信していきましょう。
以上、HOUSE VISIONのWEBサイト(http://house-vision.jp/about.html)からの抜粋。
column by 梶谷拓生/Takusei
KAJITANI
エクスペリエンスデザインを仕事にしてます
技術やデザインやヒトを融合して新しい体験やサービスを創りだす仕事です
サッカーをこよなく愛し、今も地元チームのミッドフィールダーとして活動中
サッカー好きな長男、音楽好きの長女を持つパパでもあります
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