-021.本とバラの日、サン・ジョルディ

4月23日は、世界中で、多分日本でも少しだけ有名な、愛する人に本とバラの花を贈り合う「サンジョルディの日」です。
この伝統は実は私たちの住むカタルーニャ地方発祥で、こちらではちょうど日本のバレンタインデーのように、多くの人が愛する人(恋人や夫婦)たちだけでなく、家族や友人、会社の同僚などにも「義理バラ」や「義理本」をプレゼントするので本当に沢山のバラと本が売られます。一説によると、この日に、カタルー ニャではバラの年間消費量の4割以上、本も1割以上が売れるとのこと。バラに至っては、カタルーニャの人口に匹敵しそうな数(600万本)のバラが売れ、 しかもそれはほぼ女性に限定されて贈られるので、平均で一人二本のバラを贈られるという計算になります。ちょっとすごい感じがしませんか?
こ のサン・ジョルディのお祭りはカタルーニャ人にとって最も大切な行事の一つで、この日に街を歩くと本当に沢山の本屋とバラの花を売るスタンドが街中の道端 に溢れかえるのでなかなか楽しいのですが、子供達の学校でも、2,3週間も前から、まるでクリスマスの時のように、何度もお話の読み聞かせをして、伝説にちなんだ登場人物などを工作で作ったり、イベントが目白押しです。
こちらに伝わるサン・ジョルディの伝説を要約すると、こんな感じになります。
昔カタルーニャのモン・ブランクという村に火を吐き空をとぶ恐ろしいドラゴンが現れて農作物を焼き、人や家畜を襲いました。困り果てた村の王に、ドラゴンは 「これ以上の犠牲を出したくなければ若くて美しい女性を生贄として捧げよ」と言います。王様は困り果てた挙句、街の女性全員にくじを引かせて生贄を決めることにしましたが、その結果娘である王女が生贄に決まってしまいます。王女は深い悲しみに打ちひしがれる王の前で、神の意思に従って皆のために犠牲になる 運命を受け入れ、翌朝ドラゴンの元へと向かいます。その日たまたま村に白い馬に乗った旅人のサンジョルディが現れ、王からドラゴンと王女の話を聞くやいなやドラゴンを退治しに出かけます。見事にドラゴンを退治して王女を救ったサンジョルディは、ドラゴンの血のしたたる跡から生えてきた真っ赤なバラを一輪摘んで王女に捧げます。そして王が是非ここに残って王女と結婚し私のあとを継いで欲しいと願うのを退け、現れた時と同様いつの間にか何処かへ去ってしまうのでした。

バラの花を贈るという週間はこの伝説から来ているのですが、いままで「本を贈る」のはどうしてなのだろうと思っていました。まあ、伝説だから、読み聞か せ、本、というつながりなのだろうと勝手に納得していたのですが、2年生の温が、「セルバンテスの死んだ日なんだって」と学校で習ったその由来を教えてく れました。なるほど〜それで本なのか〜。そして温のクラスでは、セルバンテスのドン・キホーテの絵本をクラスのみんなでワン・シーンづつ描いて作りまし た。あんな長い話!とそのレベルにびっくりしましたが、いろいろなバージョンがあるのですね。しかもドン・キホーテの話は基本的に愉快なので子供達ももち ろん大好きになってしまうのだそう。みんなで作った一冊の絵本、本当に素敵でした。

 

そしてそのサンジョルディの日の一週間ほど前に、毎年恒例なのですが、バルセロナの文化センターCCCBで「Mon Llibre」という子供のための本のイベントがあったので、行ってきました。思えば二年前のこの日、五味太郎さんのワークショップをはじめこのイベントの撮影に来ていたショコラ・パパと出会い、このコラムを書くきっかけとなったのでした。このイベントのメインはもちろん絵本をたっっくさん子供達に読んでもらうことですが、その他大人と子供による読み聞かせ会、人形劇、映画上映会、手作りドラゴンなどのワークショップなど楽しい企画が盛り沢山!ちょっと風変わりな所では、こんな風に太陽光発電で動くロボットが会場を歩き回っていて、地面に塩で物語を書いています。とてもゆっくり、とても丁寧に。そしてしばらくすると風が吹いたり子供達がその上を歩いたりして文字が消えていくのも素敵です。

 

サンジョルディの前日22日には、学校でも読み聞かせの会がありました。2,3年前、長男の温が3歳クラスだったときは普通の読み聞かせだったのですがだんだん演劇の方が面白いということになり、今年は、こちらのママたちに協力してもらって、イウの3歳児クラスのみんなに、日本の絵本のクラシック、「ぐりとぐら」をカタルーニャ語に翻訳し、演劇もつけてもらって読むことになりました。たまたまデンマークから遊びに来てくれていた大学時代の親友とその息子のフランシス君も観客に加わってもらって子供達も大喜び。読み聞かせとはいえ子供達も黙って聞いてはいませんから、動物たちがカステラを食べるシーンではみんなでカステラをガツガツ食べるまねをしたり、最後に卵の殻で何を作ったと思う?とクイズを出したら、沢山の子供達がハイハイと手を上げて「卵!」「ロ ケット!」「わかんない!(笑)」と参加してくれました。イウと同じ学年で隣のクラスの日本人、うみちゃんも、後で「この絵本わたしも持ってるよ!」とちょっと嬉しそうに教えてくれました。

そして、この頃、6歳、一年生以上の子供達は、お話や詩を作る練習も始めます。二年生の温はA4の紙二枚程度の話ですが、アイディアを考え話を盛り上げて、起承転結をつけてみんなの前で読むのですから、なかなか緊張します。温は「迷路の惑星」という大好きなテーマを2つくっつけたお話を作りましたが (笑)、Jocs Floral(花の遊び)と呼ばれるこのイベント、その後クラスで最も人気のあったお話は学校全体で朗読会をして、さらにその中でも優秀な作品は地区大会、バルセロナ大会へと進んでいくのだそうです。お話を読むだけでなく小さい子供達も参加できるよう歌も歌ってコンサート形式にして親たちにも披露してくれました。みんなよく頑張った、本当にすごい!

 

最後はいつものように本屋さんに寄って、みんなで好きな本を選んで買います。「すてきな三にんぐみ」でおなじみのトミー・ウンゲラーの石油を掘り当てる楽しいぶた家族の話(昔々の絵本です)、大好きなオリバー・ジェファーの卵くんたちの話、紙のロボットを工作する絵本、乗り物図鑑などなど。子供達からは学校で作った紙やねんどのバラを、夫からも本物のバラを一輪もらって!今年も楽しいうれしいサンジョルディが終わりました。来年も、またたくさん絵本を読もうね!

 

Column by Tomoko SAKAMOTO
カタルーニャ人でグラフィック・デザイナーのダビ・パパと一緒に
ブック・デザインとその周辺を手がけるSPREAD(www.spread.eu.com)
というスタジオを主催する編集者・ママのコラムです

「遊んであげない。一緒に遊ぼう!」をモットーに二人の男の子を育てています