-006.2014.3.11

ワインの魔法


死ぬまで解けない魔法がかけられている、、、かもしれない…!?
そんなピノ・ノワールを飲みながら、3年目の311の夜は、その前夜とは正反対の『死』と言うものに思いを巡らせてみた。。。
もしこのワインに魔力があるとしたならば、秘密はきっと一筋の濁りもない透明度の高いルビー色の輝きに隠されているのだと思う。。。   ルビーには根源的な生命力を高める作用がある。戦うものに熱情と不死の力を与える。情熱、活力、豊穣、多産…願わくばどれも死ねまで解けて欲しくない魔法だ。

そして間違いなくこのワインは女性だ。若さ故に恋に破れた果てにオトナのオンナになりかけている娘。。。そんな味がする。思い返してみると、若い頃はずいぶんと多くの恋に破れてきた私だ。何度痛い思いをしても恋することをやめられなかったのは怖いもの知らずだったからなのか!? シジュウのオトナなオンナになった今の私はいささか恋に怖さ(恐怖感)を覚える…あんなに純粋無垢に人を愛することが出来た私なのに。ルビー色に輝くワインの魔法の如く、情熱、活力、豊穣、多産...なるものを恋に求めた故に招いた結果なのだろうか...? 或いは恋にまつわる「死」の恐怖のトラウマなのやもしれない。


「死」に対して恐怖を覚えるようになったのはいつ頃からなのだろう…         思い出せない、、、が、しかし、恐怖…と言う感情は既に物心ついた時にはあったかと思う。私には「死」や「死に近い何か…」、「死をイメージさせる何か...」と脳が判断する体験(体感)こそが、恐怖と言う感情を作り出しているのだと思えて仕方がない。だからこそ「死」に敵うほどの恐怖はないのではないのかと考える。しかしながら私は臨終を体験したわけでもないし、死後の世界を見たわけでも、そこから復活した人の話しを実際に聞いたことがあるわけでもない。故に現実の「臨終=死」は私が思っているほどの恐怖ではないのかもしれない。。。とも考える。数々の身内を看取った末に訪れた臨終がどれも安らかなものでしかなかったからかもしれない。
 
ワインに死ぬまで解けない魔法がかけられているかもしれない…と教えてくれた人は。更なるキーワードを残してくれていた。4つのエレメンツ 火、風、水、土。そしてその人は言った。そのワインからはあきらかに風と土…二つのエレメンツを強く感じられる…と、、、

死ぬまで解けない魔法…
火、風、水、土…
そして明らかなる風と土…

胸の奥に何かが疼く。一晩...いや、二晩考えてみた。
 


そうだ。

私が思い描く生と死の原点はその4つの構成、火(陽)、風、水、土から成り立っていたのだ。情熱、活力、豊穣、多産などは、もはやオマケにすぎないもの。。。

写真の指輪はネイティブアメリカン(インディアン)HOPI(ホピ)族のRaymond Kyasyousie氏の作品である。
それぞれに意味を持ったモチーフがオーバーレイと言う技法を用いてシルバーに刻まれている。

サンフェイス(太陽)
インディアンにとって絶対神。彼らにとって太陽とは、遠い宇宙に存在する神が人間の暮らしを見守る為の窓であるとされている。

ウィンド(風)
風とインディアンは共に生きているもの。風は彼らの生命の象徴とされている。
 
ウェーブ(水)
人間をはじめ、すべての動植物に必要な物。水は乾燥した大地を潤し、命を与えてくれる。そのようなことから平和、生命の象徴とされている。
 
タートル(大地)
大地に見立てた甲羅を背負って歩く姿から母なる大地の象徴とされている。また、雨をもたらす事と、祖先との絆を結ぶものとしての意味がある。

これは今から13年前に作ったマリッジリングだ。マリッジリングとしてはもはや意味を無くしてしまっているのかもしれないが、奇しくも生と死を見つめ直す原点回帰には優秀すぎる過去の遺産となった。どうりで胸が疼くはずだ。当時インディアンジュエリーにかぶれていた私たちは、お気に入りのアーティストRaymond氏を探し出しコンタクトを試み、ついの果てにはご本人にオーダー出来たのである。デザインしたのは私なのだが…。作品の仕上がりがNGなのはデザインのせいではない…と、思いたい。これでも3回作り直してもらった。これ以上の作り直しはどうにもこうにも式に間に合わなかった。。。涙の妥協だ。一言で言うならば、ネイティブはお金がある時は働かない ※いい仕事をしない…と補足しておこう=至ってシンプルライフ。つくづく合理的な考え方だ。嫌いではない。ここに刻まれたそれぞれのモチーフには意味がある、簡単に言うと何(お金や地位や名誉)はなくとも、これ(太陽・空気・水・大地)があれば生きていけるじゃないのよ…自然と共に自然体で生きましょうよ私たち!…と言うような生の根源を、新しい家庭を持つことにあたり確と刻んだのだ。ネイティブアメリカンの教えや生き方に関しては、ほんの少しだけしか探究をしていない。ネイティブやその道の専門家から言わせたら突っ込みどころは満載なのだろうが、私は私なり噛み砕いた上で解釈をし自分の考えとしている。ネイティブとして生きているわけではない故それまでだと思っている。

 


これはネイティブアメリカンの詩の冒頭の一文である。

Today is a very good day to die…
今日は死ぬのにとてもよい日だ…

ネイティブアメリカンの生き方は死が日常の延長線上にあるかのように、彼らはそれを恐れてはいない。ネイティブアメリカンは死を生きていることの一部として受け入れ、逝くべき時を「いい日」が来たと受け止める。

死も生の営みの一つと考えることは難しいけれど、肉体は滅びても魂は永遠…その転生輪廻の説で考えてみると充分に道理に叶っていて納得がいく。仏教の思想にも通ずるところが多々ある。「死」 は終末ではなく一つの節目。次の新たな生命となるために「死」を迎える。進学、就職、結婚それらと何ら変わりのないもの。新たな門出の日は常に「いい日」 であって欲しい...いや、「いい日」であるに違いない。現にそれらは常に肯定的で「いい日」として迎え入れてきたはずだ。
 
詩の全文はこうだ
 
Today is a very good day to die.
Every living thing is in harmony with me.
Every voice sings a chorus within me.
All beauty has come to rest in my eyes.
All bad thoughts have departed from me.
Today is a very good day to die.
My land is peaceful around me.
My fields have been turned for the last time.
My house is filled with laughter.
My children have come home.
Yes, today is a very good day to die.

今日は死ぬのにとてもよい日だ。
あらゆる生あるものが私と共に仲良くしている。
あらゆる声が私の内で声をそろえて歌っている。
すべての美しいものがやってきて私の目の中で憩っている。
すべての悪い考えは私から出て行ってしまった。
今日は死ぬのにとてもよい日だ。
私の土地は平穏で私をとり巻いている。
私の畑にはもう最後の鋤を入れ終えた。
わが家は笑い声で満ちている。
子どもたちが帰ってきた。
うん、今日は死ぬのにとてもよい日だ。
Many Winters c by Nancy Wood 1992

ネイティブは言う。祖先は決して我々のそばを離れることはない。風となり、雨となり、火となっていつでもそばにおり、正しく生きなさいと話してくれる。時に、トカゲの姿を借り、バッファローにもなる。シカにもなる。蛇にもなる。時に雨粒となって、 乾いた大地に命の水を与えてくれる。羽音を立てる虫や優しい蝶になることもある。。。生まれ変わった姿が人間でなくても、命の循環だと考える。インディアン達はそこから自然界の法則を学び取っているのだ。(転生した姿形にはそれぞれ意味があるが長くなるので中略する)

ならば、肉体はどうであろう・・・  願わくば、ふるさとの土と風に帰りたい...それも命の循環、自然界の法則ではないのだろうか。私を引き継ぐものは誰もいない。ならばどこかの歌の詞ではないけれど、お墓で眠ることよりも、故郷の土と風に抱かれたい。そう願っても好いのではないのだろうか?


魂も肉体も火(陽)となり、水となり風となり土とになりこの地球上の生ある種の循環再生を促す。
 
生と死はイーコール。どちらも新たな出発(たびだち)の日。ルビーの輝きは一年365日、一日24時間、いつ旅立っても、今日は死ぬのに「いい日」と思えるような生き方をしなさいと導いてくれたのやもしれない。そういう生き方をしていれば、自然体の自分の中に、情熱、活力、豊穣、多産...自ずとやってくるのであろう。

しかしながら、私はこの「いい日」は万人に訪れるとは思っていない。いや…「いい日」は迎えられていてもそれに気づくことが出来ない人もいると言った方がいいかもしれない。今ある生への執着と己を満たすだけの欲望に駆られ、自然の摂理に相反し、人の道理を外れ、善良たる人を欺いて までも私腹を肥やす私利私欲で無慈悲な心の持ち主は、例え次なる生が与えられたとしても、人間に転生出来なかったことをただ怨み、与えられた転生を全うすることが出来ないであろう。或いは自身が生まれ変わっていることにさえも気がつけない哀れな転生を繰り返すのかもしれない。

蜘蛛
人間の副創造主を表す。蜘蛛は赤土と自分の出す糸とを混ぜあわせて人間を作ったとされている。

そんな哀れな転生を見かねた、聖なる蜘蛛の御慈悲により、人間の生を与えられる機会が得られたとしても、その聖なる蜘蛛と命の源の大地の赤土で作られた生命を紡ぐ糸でさえ、私利私欲に満ちた重たい体を支えるのは難しいだろう。もしくは欲望のままにその糸をめいいっぱい自分の元へ手繰り寄せすぐに途切れてしまうのだろう。そしてなお、欲望は反逆と化し聖なる蜘蛛の逆鱗に触れその人物の転生輪廻は途絶えるのであろう。。。永遠に報われない魂が浮遊するのである。 或いは罪人に乗り移り悪行を繰り返し生きるのやもしれない。上記はあくまで私個人の想像の域だが、何れにしても罪を犯した意識のない罪人の言い訳はいつでも、醜く哀れな光景でしかない。。。

 

ならば私はシンプルに生きよう。蔓延る文明の進化の象徴(富)と欲に塗れず、自然との共生をはかりながら足るを知る生活。分かちあうことができれば喜びや楽しみは2倍に、悲しみや苦しみは半分に...ネイティブの教えどおりの暮らしをするまでだ。
 
遠く離れたエデンの園の住人にも教えてきたことだ。初めて作ったみんなで分け合うお弁当を食べた時に起きた出来事がきっかけだ。Facebookにもしっかりと記している。

February 23, 2013
分かち合うことができれば
喜びや楽しみは2倍に、、、
悲しみや苦しみは半分に…

ネイティブアメリカンの教えから
…で、本日のランチww



私が教えたことを今も継続しているのか否かは分からない…ただ、身内に限らず誰とでも何かを分かち合える心はどこか胸の片隅にでも置いておいてもらいたい…と言うのが正直な気持ちだ。誰にでも分け隔てなく平等に接する…この教えはネイティブだけでなく、私の父の教えでもある。重要なのはどう捉えられたのか…ではなく心からの気持ちとして伝えたことだと思っている。どう捉えるかはそこから噛み砕いて自分なりの解釈をする本人次第だ。だからそこに後悔はない。
 
先の震災で命の儚さと尊さを同時に学んだ…天災と言う人間が太刀打ちできない自然の力によって引き起こされた惨事も自然界の法則。生命の循環なのかもしれない。しかしながら、まだ消えるはずのない多くの命の灯火が消えていった事実に心が痛まない日はない。

March 11, 2014

祈りのとき

地震や津波、原発事故の犠牲となられた方への哀悼と敬意の意も込め、この未曾有の災害を教訓に、私がエデンの園で伝えてきたことのように、例え明日不慮の死を迎えたとしても後悔も無念もなく「いい日を迎えた」ありがとう。しあわせだ。また会いにくるね…
そんな風に自然にその出来事を、日常の一頁に過ぎないことだと思えるよう、今日と言う日に与えられた今…と言う瞬間を常に一生懸命、精一杯、一分一秒足りとも無駄にせずに過ごしたい。そして召される日を優しく穏やかな気持ちで迎え入れたいと今の私は思う。


アルゼンチン パタゴニア リオネグロ HUMBERTO CANALE ESTATE  ピノ・ノワール 2012
 

最後にワインのこぼれ話を付け加えよう。
死ぬまで解けない魔法がかけられていた、、、かもしれない…ピノ・ノワールにはもう一つ隠された魔力があったようだ。
恋に破れたムスメ(オンナ)の悲しみと恋への恐怖を溶かし、眩いばかりの輝きを放つルビーのような高貴な艶女に蘇らせる魔力が…

 

最後に、このワインと私の死生観を蘇らせるキーワードを絶妙なタイミングでご紹介下さったUさんと、これまた絶妙なタイミングでUさんと出会うきっかけを作って下さったchocolatpapaさんとそのフィルムケースさんに心から感謝申し上げます。ありがとうございました。

 

column by Hitoe

     インポートシューズバイヤー兼ショップオーナー
1973年(昭和48年)埼玉県の旧陸軍高萩飛行場跡「旭ヶ丘開拓地」で兼業農家を営む8人大家族の末娘として生まれ育つ
20代は留学経験を活かし翻訳業を中心に派遣社員として働きながら地域の青少年育成のためボランティア活動に従事
27歳で結婚。30歳で起業。39歳の誕生日を迎えてすぐに元夫とポジティブな離婚

約1年のブランクを経て現在元夫と週末事実婚を実践中

 

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コメント: 2
  • #1

    Stievie (金曜日, 21 3月 2014 13:10)

    ワインに死ぬまで解けない魔法がかけられているかもしれない…と教えてくれた人は。更なるキーワードを残してくれていた。4つのエレメンツ 火、風、水、土。そしてその人は言った。そのワインからはあきらかに風と土…二つのエレメンツを強く感じられる…と、、、

    死ぬまで解けない魔法…
    火、風、水、土…
    そして明らかなる風と土…

  • #2

    StievieHonda (金曜日, 21 3月 2014 13:22)

    すみま、すみません、すみま。
    m(_ _)m
    上は途中です。

    興味深い文章ですね。
    ワインという西洋的なものを題材に
    しながらも、私の印象は違う所に
    飛んでいました。

    >ワインに死ぬまで解けない魔法がかけられているかもしれない…
    >死ぬまで解けない魔法…
    >火、風、水、土…
    >そして明らかなる風と土…

    西洋的でありながら、
    これはまさに、陰陽道の
    木火土金水に他ならないのではないか、と。

    万物には西洋も東洋もないのかと。

    また、
    「今日は死ぬのにとてもよい日だ。」
    の詩句を、私は
    「今日は生きるにはとてもよい日だ。」
    と読み替えたいのですが。
    それはやりつくした生あってこその
    死という意味での、
    「とてもよい日だ。」だと思うのです。

    素晴らしい写真と奥深い文章に感銘を受けた
    わずかながらの感想です。
    大人の女性のしっとりとした文章に触れて、
    ついついお邪魔してしまいました。

    PS
    でも一番の目から鱗は
    一番最後の
    HITOEさんのプロフィールかな。
    豊かな人生経験が
    豊かな文章を生み出す。

    文章は人そのものだと感じます。
    (^^)/