018.禅とは??

海辺に佇む鈴木大拙氏の写真
海辺に佇む鈴木大拙氏の写真
鈴木大拙書「独坐大雄峯」「それはそれとして」
鈴木大拙書「独坐大雄峯」「それはそれとして」

日本の禅文化をアメリカに伝え、欧米で禅マスターと呼ばれた鈴木大拙氏のミュージアム、しかも、世界的にも非常に評価の高い建築家・谷口吉生氏の設計ということで、テーマとしても建築的にもとても興味深い場所。今日は、その「鈴木大拙館」をスケッチしたいと思います。

鈴木大拙氏(1870年11月11日生~1966年7月12日没)は、禅についての著作を英語で著し、日本の禅文化を米国をはじめ海外に広く知らしめた、金沢出身の仏教学者として知られています。「禅」に興味を持っていた故スティーブ・ジョブスもこの鈴木大拙氏の書籍を愛読していたとの逸話があります。

鈴木大拙著「禅と日本文化」
鈴木大拙著「禅と日本文化」

「禅」といっても「座禅」のことくらいしか思い浮かばないので、少し鈴木大拙氏の書籍を読んでみました。そのうちのひとつ「禅と日本文化」のなかで、禅についてこんなことが描かれていました。

 

「禅は無明(≒真理に暗いこと)と業(≒宿命)の密雲に包まれて、われわれのうちに眠っている般若(超越的知恵)を目覚まそうとするのである。無明と業は知性に無条件に屈服するところから起るのだ。禅はこの状態に抗う。」

理屈から入るのではなく、まず、自分の中にある直感を信じて動くという姿勢を大事にすること、つまり、いまの時代のように、知識に沿って行動する、ということとは逆の方法で知恵を得るのが禅の方法だということが描かれています。

 

続いて、「禅とはいかなるものかと問えば、自分は禅とは夜盗の術をまなぶに似たるもの…

ということで、夜盗の親子の説話が語られます。話をかいつまんでいうと、昔、ある夜盗の親子がいて、子どもが父親に夜盗の術を学びたいと申し出る。すると父親は、それを承知してある金持ちの家に息子と一緒に忍び込むことにした。首尾よく、物品を盗んだところで、父親は突如、息子を金持ちの部屋に閉じ込め、自分は大声で「泥棒だ!」と叫んで逃げ出し、家で息子の帰りを待ったらしい。最終的に命からがら逃れてきた息子に対して父親は「それだ。お前は夜盗術の極意を覚え込んだ。」と言ったそうです。これが禅の学び方、のわかりやすい例だそうです(笑)。

 

「禅と日本文化」は、こんな調子で文章がスタートし、禅と美術、禅と武士、禅と剣道、禅と茶道など、さまざまな日本文化の根底にこうした「禅」の学び方がある、といったようなことが描かれており、なかなか面白い本でした。理屈ではなく感性や作法、実体験を重視する、という学びの方法は、確かに様々な日本の芸術文化、しきたりのベースにあるように思えました。

 

そんな鈴木大拙氏を記念した建築は、「玄関棟」「展示棟」「思索空間棟」を回廊で巡るようなつくりで、それぞれの棟に「玄関の庭」「水鏡の庭」「露地の庭」があります。この3つの棟と3つの庭からなる空間を回遊することで、鈴木大拙氏について知り、学び、そして考えることが意図されているとのこと。

水鏡の庭に落ちる雪解けの水滴
水鏡の庭に落ちる雪解けの水滴
シンプルな禅の世界のエントランス
シンプルな禅の世界のエントランス

「禅」の考えに似て、館にはさほど多くの説明はなく、書や写真、書籍などが展示され、とてもシンプルなデザインの建築。そして、ただただ静かな水面を蓄えた水鏡の庭を眺めつつ、雪解け水が水盤に落ちる静かな音を聞き、きりっとした空気のなかを思いに耽りながら歩くことが新鮮な感動すらある、なかなかユニークな現代建築でした。

展示室にふとおいてあったリーフレットに鈴木大拙氏のこんな言葉がありました。

 

「生命は、時という画布の上に、みずからを描く。そして時は、けっしてくりかえさない。ひとたび過ぎゆけば、永遠に過ぎ去る。行為もまた同様である。ひとたび行えば、行われる以前にはけっして戻らない。生命は「墨絵」である。ためらうことなく、知性を働かせることなく、ただ一度かぎりで描かねばならぬ。」

水鏡の庭に建つ思索空間棟
水鏡の庭に建つ思索空間棟
美しい夕暮れの空
美しい夕暮れの空

丁度、建築の背景の夕陽が徐々に赤く染まり、水鏡の庭は、空と建築の風景を映し、時間とともに全く違う場に変化してゆきます。この場のこの時間の風景もこの場限り、そして、生命も「ただ一度かぎりで描かねばならぬ。」という言葉の意味が風景ととも語りかけてきます。

 

日本人の美意識や感性のことと自分の感性を顧みて、改めていろいろなことを感じさせてくれるような、素晴らしい場所でした。

column by 梶谷拓生/Takusei
 KAJITANI
エクスペリエンスデザインを仕事にしてます

技術やデザインやヒトを融合して新しい体験やサービスを創りだす仕事です

サッカーをこよなく愛し、今も地元チームのミッドフィールダーとして活動中

サッカー好きな長男、音楽好きの長女を持つパパでもあります

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コメント: 2
  • #1

    宮津静 (金曜日, 28 3月 2014 15:01)

    素敵な、趣きのある「妙」なる美術館ですね。
    文章もわかりやすかったです。
    美術館の場所を明記していただけたら、有り難いと思いました。

  • #2

    梶谷拓生 (日曜日, 30 3月 2014 16:43)

    コメントありがとうございます。
    そうですね。場所を明記すること、大事ですね。以後、コラムには場所を明記するようにしたいと思います。
    貴重なご指摘ありがとうございます。

    <住所>
    〒920-0964 石川県金沢市本多町3丁目4番20号
    <アクセスマップ>
    http://www.kanazawa-museum.jp/daisetz/access.html
    <営業案内>
    開館時間 午前9時30分から午後5時 ※入館は午後4時30分まで
    休館日 毎週月曜日 ※月曜日が休日の場合はその直後の平日
    年末年始 ※12月29日から1月3日 ※展示資料の整理等のため休館する場合があります。
    入館料
    一般 300円[250円]
    65歳以上/障害者手帳をお持ちの方 200円[200円]
    高校生以下 無料
    ※[ ]内は20人以上の団体