-032.「君ってナニジン?」と聞かれたら

みなさまこんにちは。

今日、このコラムを書いている9月24日はバルセロナの祝日です。 街の守護神、メルセの祭りで、学校や会社は休み、街のあちこちでコンサートや花火、演劇など、ありとあらゆるイベントが行われるとっても賑やかな日です。 今日が祝日なのはバルセロナ市だけなので、近隣の街は平日。ちょい郊外に二件の店舗を持つIKEAなどは、それを利用して「メルセの日も開店しています」 なんていう街頭広告を出していて、この日をどう過ごすか、いろいろな選択肢があってなるほどと思ったりもします。実際旅行に出かける友人も沢山居ます。

 

そして以前のコラムでもちょっと触れましたが、この日は6月23日のサンジョアンの日と12月25日のクリスマスのほぼ中間に当たります。日本で言う秋分、 ということになりますが、昼と夜の長さが同じになるこの日に行われるお祭りは、バルセロナにとって「夏が終わり、秋が始まる日」とも言われています。本当 に毎年驚くのですが、確かに、この日の前は暑く、この日を堺にぐっと気温が下がって秋らしくなるのです。子供たちも今週から、いきなり寒くなったので長袖シャツに衣替えとなりました。

 

 

前置きがお祭りの話になってしまいましたが、今日は、別のこと、先日 やっと自分の中で、少しもやもやが晴れた、「ハーフの子供たち」というテーマの話をしようと思います。というのも、先日、とある夕食会ではじめてお会いしたママと、そしていつも緊急時にお世話になっているベビーシッターさんから、とっても面白い話を聞いたので、そのことをみなさんに紹介しようと思ったのです。

その夕食会で会ったママは、日本人の旦那様を持つカタルーニャ人で、バルセロナにずっと住んで います。もう立派なティーンになる二人のお子さんがいらっしゃるのですが、家族で日本に行った時に子供たちが、「日本ではみんな僕達の事を見てハーフ、と言うけれど、それは違うと思う。それを言うなら、半分、じゃなくて、ダブル、が正しいんじゃない?」と言ったのだそう。日本語のコンテクストの中で「ハー フ」を差別用語だと思っている人はほとんどいないとは思うのですが、言葉の意味に敏感に反応して、自分はどっちつかずの半々の存在ではなく、どちらのアイデンティティもちゃーんと持った倍!の存在なんだ、ということを、彼らなりに真剣に考えて出した結論で、そのママも「子供たち、偉い!」と思ったそうですし、その話を聞いた私達も、なるほど!と強く頷いてしまったのでした。

 

カタルーニャでは、あるいは 少なくとも私達が住んでいるバルセロナの近所では、混血児というのは全く珍しくないので(温の親友のうちの二人、エミルはスウェーデン人とチリ人の混血、 イッツィはドイツ人とエチオピア人の混血です。もちろん生粋のカタルーニャ人も沢山いますが)我が家の息子たちが通っている地元の学校で何か特別扱いされたりするようなことはほとんどないのですが、それでもクラスで何かある度に「これ日本語で何ていうの」とか「これについて日本にはどんなものがあるの」と聞かれることはしばしばで、そもそも見た目が明らかにアジア人ですから、もちろん日頃から自分たちと日本、ということについては彼らなりに思うことも多いとは思っていました。

 

そして先日、夏休みの終わりに、ベビーシッターさんに我が家の子供たち二人をサイエンス・ミュージアムに連れて行ってもらった時のこと、そこに観光客と思われるロシア人の家族がやってきたのですが、その子供が、周りに居た沢山の他の子供たちとうちの子供たちの見た目が違うことに気がついて、その子の両親と、うちのシッターさんの通訳を交えながら、温とイウに話しかけてこんな会話をしたんだそうです。

 

ロシア人の子:「ねえねえ、君たちどこから来たの?」

温:「ここだよ。バルセロナから。」

ロシア人の子:「じゃあ、君たち、ナニジンなの?」

温:「カタルーニャ人だよ。バルセロナで生まれたし、カタルーニャ語もちゃんとしゃべれるよ、ほらね」

イウ:「ぼくは日本人だよ。ママが日本人なの。日本語もしゃべれるよ。」

 

意外なことに、うちの子供たちはどちらも「カタルーニャ人であり、日本人でもある」というダブル認識は持っていないらしいということが分かってしまいまし た。温はきっといろいろな場面で事あるごとに日本人扱いされて、ちょっと食傷気味だったのかもしれません。けれども、興味深いのは、みんなと同じ、カタ ルーニャ人で居たい、仲間はずれになりたくない、というその意思表示そのものは、実は極めて日本的な態度、な気がするのです(笑)。

 

一方イウの方は、他のみんなと違うことの中に自分のアイデンティティを見出していて、周りの他のみんなにはなくて、自分にだけあるもの、が自分らしさを作っているんだ、ということを、5歳ながらにポジティブに捉えていて、まあ、ただの目立ちたがり屋さんなだけかもしれないのですが、マイノリティであることを 誇りに思う、その態度はカタルーニャが世界に対して示している姿勢と重なるような気がして、たくましいなー、さすが怖いもの知らずの次男だなー、と微笑ま しくなってしまうのでした。

 

 

この子たちが大きくなるまで、あるいはいつか本当に自分のアイデンティティのことで真剣に悩んだりする日が来るまで、「ハーフじゃなくてダブル」という話は言わずにとっておこうと思っています。血筋的には100%日本人である母親の私ですら、日本に居るときなどは「で、スペインは、カタルーニャは、バルセロナはどうなの」とガイジン扱いされたりしますし、こちらに住んで長かったり子供たちのおかげでもあるのですが、「私達カタルーニャ人」という意識もかなり強く持っているつもりでいます。そしてこちらで日本の話ももちろ ん、良くするので(スペイン語の分かる方はちょっと恥ずかしいですがこちらもどうぞ)。自分のアイデンティティがどこにあるのか、ということについては結論はでていないにしてもしばしば突き当たるトピックではあるのです。

ⓒTetsuya Tsukada
ⓒTetsuya Tsukada
ⓒTetsuya Tsukada
ⓒTetsuya Tsukada

先日、バルセロナに来るのは5回目という日本から来てくれた友人(もちろんバルサ・ファン!)が、「バルセロナは自分にとって第二の故郷」と言ってくれてとっても嬉しかったのですが、ある土地を想う気持ち、というのは始めは持って生まれたものから始まって、そこから自分で選ぶもの、に育っていくものですよね。夫のダビなどは、将来子供たちが自分で国籍を選択する年齢になるまでカタルーニャが独立しなかったら、スペイン国籍よりは日本国籍を選んで欲しいくらいだ、などと息巻いているくらいですし(笑)、カタルーニャが近い将来どんな形で国としてのアイデンティティを示していくのか、当事者としてもワクワクしつつ見守っていきたいと思っています。ちなみに私は、それまでに日本政府が二重国籍を認めてくれるように法を改正してくれればいいのに、と現実的なことを考えているのですけれど、ね。

 

きっとこのコラムを読んで下さっている方は少なからずこういった問題にも興味があると思いますので、どしどしみなさんの意見をコメントに残してくださるとうれしいです。

 

ではこれからが本格的な秋に突入です。子供たちの大好きなキノコ狩り番組も始まりましたし、みなさん食欲、読書、運動と楽しい秋をお過ごし下さい。

 

ではまた次回まで。

Column by Tomoko SAKAMOTO
カタルーニャ人でグラフィック・デザイナーのダビ・パパと一緒に
ブック・デザインとその周辺を手がけるSPREAD(www.spread.eu.com)
というスタジオを主催する編集者・ママのコラムです
「遊んであげない。一緒に遊ぼう!」をモットーに二人の男の子を育てています 

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コメント: 2
  • #1

    Kimiko (月曜日, 13 10月 2014 15:11)

    Tomokoさん、はじめまして。リンク先のVimeo、素晴らしく楽しい!です。そして、解りやすくて、もっともっと聞きたくなりました。他にもあれば教えてください。
    アイデンティティ、突き詰めても答えが出ないテーマですよね。あの場にいた方たちにとっては、"日本出身で、(だから)日本に精通している、カタルーニャ女性"なんじゃないかと思います。。

    うちの11歳児は日仏ハーフですが、南米生まれなので、(国籍は日仏なので、将来選ばないといけなくなりますが)、2択ではないので、少し楽な部分があります。ナニジン?ときかれると、「フランス&日本人、でも、アルゼンチン生まれだよ」と淡々と答えてます。
    日本語と外国語では必ずしも直訳が正しい意味を持っていないのはわかっているようで、日本語のハーフと言うのもダブルと言うのも、どちらでもいい感じ。「でも、どっちかっていうなら、ピザみたいにハーフ&ハーフだよね」と笑ってます。ところで、他人は、深く考えることもなく、2国比較質問とか「初めて話した言葉は?」と訊いて来ること多くないですか? うちでは、(どこも同じと思いますが、まず母親の呼称)ママ、だったんですけど、私は、南米スペイン語のMamáだったということにしてウインクしてます。

  • #2

    Tomoko Sakamoto (月曜日, 13 10月 2014 16:06)

    わ、コラムがアップされたのを私が知るより先にコメントを書いてくださって、ありがとう(笑)。Kimikoさんは今もアルゼンチン在住、なのですか?うちの長男は、カタルーニャ語を話す保育園に通い始めて日本語が通じなかったのがショックだったらしく、4歳くらいまでマトモにしゃべらなかったのですが(理解はできるけれど、Si, Noだけで会話しようとするようなところがあり)、次男の方は未だに知ってる単語をかなり混ぜて、カタルーニャ語の動詞を巧みに日本語的に活用したりしながら(笑)べらべらとまあ、小さい頃から良くしゃべっています。Kimikoさんもきっとそうだと思いますが、多言語家族に育った子供は、いろいろ話せるというそのこともまあそうなのですが、言葉の通じない人に初めて出会った時に、臆せずに接することが出来るところが一番いい所だと思っています。次男のイウは、クラスに新しく転校してきた中国人の女の子(中国語しか話せない)を、結構気にして世話してあげたりしているみたい。我が家は日本語とカタルーニャ語という、どちらかといえばマイナーな言語が基本なので、国際化=英語、じゃなくて、もっと柔軟にいろんな文化や言語を覚えていってほしいなあと思うのでした。